研究所トップ研究成果情報平成16年度

昆虫病原性線虫剤によるモモシンクイガの微生物防除

[要約]

生物農薬である昆虫病原性線虫Steinernema carpocapsaeを製剤化した「バイオセーフ」を、モモシンクイガが幼虫態で土中に潜伏している時期(5月下旬から6月下旬)に25万頭/m2壌面散布することにより、果実被害を抑えることができる。

[キーワード]

生物農薬、昆虫病原性線虫、モモシンクイガ、果実被害

[担当] 福島果樹試、病理昆虫部、虫害研究室
[連絡先] 電話024-542-4199、電子メールkajyusi@pref.fukushima.jp
[区分] 東北農業・果樹
[分類] 技術、普及

[背景・ねらい]
 複合交信攪乱剤を使用したものの、放任園や多発園の影響によりモモシンクイガの被害が生じることを想定し、その補完防除剤として生物農薬の一つである昆虫病原性線虫製剤Steinernema carpocapsae(商品名:バイオセーフ)のモモシンクイガ防除効果を検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. バイオセーフは昆虫病原性線虫Steinernema carpocapsaeを製剤化した生物農薬である。水に溶かして使用することから、スピードスプレーヤによる散布が可能であり、土壌面に散布することから、ドリフトを最小限に抑えることができる。
  2. モモシンクイガが多発したほ場の樹冠下土壌には多数の幼虫が生息している。そこで、多数のモモシンクイガ老齢幼虫を室内の容器内の土壌に放飼した後に、S.car-pocapsaeの濃度を変えて土壌面散布すると、線虫の投入量が少なくてもすべての幼虫が死亡することから、高密度条件下すなわち多発ほ場での使用が有効であると判断される(表1)。
  3. 散布時期は土中の幼虫が蛹になる前までであり、モモシンクイガの羽化時期は長期にわたることから、5月下旬および6月下旬の2回の散布が必要と判断される。
  4. リンゴ放任園に2回散布した結果、無散布に比べて明らかに被害が軽減される(表2)。また、前年に約10%の果実被害が認められ、モモシンクイガの多発したモモほ場においては、前年同様の殺虫剤散布に加えて2回、S.carpocapsaeを散布することにより、被害を回避することが可能である(表3)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本製剤は果樹類のモモシンクイガ防除剤として既登録である。
  2. 線虫剤は1回の散布に10aあたり1万円程度かかる。
  3. 放任園や多発園での使用が望ましい。モモシンクイガの幼虫は樹冠下に多いので、特に樹冠下を重点に散布する。
  4. 線虫は乾燥に弱いので雨中での散布が望ましい。また、散布後に散水し、下草等に付着した線虫を洗い流すと効果が高まる。
  5. バイオセーフは活動温度帯が地温15℃から30℃と限られているので注意する。
[具体的データ]

[その他]
研究課題名 昆虫病原性線虫剤によるモモシンクイガ防除
予算区分 県単
研究期間 2000〜2004年度
研究担当者 荒川昭弘、岡崎一博、阿部憲義