キャベツセル苗へのリン酸カリ液の定植前施用によるリン酸施肥削減
[要約]
128穴セルトレイで育苗したキャベツ成形苗をリン酸カリ水溶液に1時間浸漬した後に定植すると、本圃へのリン酸施用量を可給態リン酸が低い畑では慣行の50%に,中程度の畑では25%に削減しても,慣行と同等の収量が得られる。
[キーワード]
リン酸、定植前苗施用、減肥栽培、キャベツ、セル成形苗
[担当]
東北農研・畑地利用部・畑作物栽培生理研究室
[連絡先]
電話024-593-6174、電子メールnikonf2@affrc.go.jp
[区分]
東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分類]
技術・参考
[背景・ねらい]
黒ボク土畑では,リン酸肥料が不可給化しやすく,利用率が非常に低い。キャベツのポット苗に対し,定植直前にリン酸塩水溶液を与えることで,リン酸の利用効率が高まり,リン酸施用量を大幅に削減できることが明らかになっている。しかし,ポット苗育苗では,育苗,定植作業に多大な労力を必要とする。そこで,128穴セルで育苗したセル成形苗について,定植前リン酸苗施用法を適用するときの適切な施肥法,およびリン酸肥沃度が異なる土壌での施肥量について検討を行った。
[成果の内容・特徴]
- キャベツ品種「南宝」を供試し,128穴セルトレイで第3葉が抽出するまで育苗する。用いた育苗培土は,粒状園芸培土,粒状炭化物,ピートモス,パーライトおよびバーミキュライトから構成され,P2O5を1リットルあたり530mg含む。
- 1のキャベツセル成形苗を,水1リットルあたりKH2PO4を16.5g,K2HPO4=を7.0gを溶かしたリン酸カリ水溶液(P=0.5%, pH=6.2)に定植前に1時間浸漬した後、リン酸施肥量を削減した圃場に定植する。試験圃場は,リン酸吸収係数19〜20g kg-1の淡色黒ボク土壌畑であった。
- 定植前にリン酸カリ水溶液施用を行うと,定植後3〜4週間にわたり初期生育が促進される(図1)。
- 定植前にリン酸カリ水溶液施用を行うと,畑へのリン酸施用量を50%(P2O5=90kg ha-1)まで削減しても,生育後期まで生育が遅滞することなく,慣行施肥(P2O5=180kg ha-1)と同等の収量が得られる(図2)。これは,初期生育が促進されたことと育苗土中に保持されたリン酸の利用率が高まったことによるものと考えられる。
- 畑のリン酸肥沃度が一定以上の場合でも(トルオーグ法で,P2O5=28mg kg-1),初期生育が促進される傾向が認められ(図3),畑へのリン酸施用量を25%(P2O5=45kg ha-1)まで削減しても,慣行施肥と同等の収量が得られる(図4)。
[成果の活用面・留意点]
- 定植前リン酸処理により高濃度障害が発生することがある。処理リン酸資材として過リン酸石灰や重焼りんなどの粒状のリン酸肥料、水溶液状であってもリン酸アンモニウムを用いると高濃度障害が発生しやすい。また,処理溶液のpHが6以下になると障害が発生しやすい。浸漬処理中,処理後の強光,また定植後の土壌の乾燥によっても障害の発生が助長されることがある。
[具体的データ]
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