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日本短角種における生体内卵子吸引−胚生産の特性−

[要約]

日本短角種では、黒毛和種より卵胞数が少ないことから、胚生産数が少ない。しかし、生体内卵子吸引−体外胚生産により、日本短角種でも繰り返して胚を生産できる。また、日本短角種は採取卵子中に占める良質卵子の割合や胚発生率の点で優れる。

[キーワード]

肉用牛、日本短角種、生体内卵子吸引、体外胚生産、家畜繁殖

[担当]

東北農研・畜産草地部・育種繁殖研究室

[連絡先]

電話019-643-3542、電子メールtake7444@affrc.go.jp

[区分]

東北農業・畜産、畜産草地

[分類]

技術・参考

[背景・ねらい]

日本短角種は、放牧適性に優れることから、健全な赤肉生産のための品種として重要性が高まっている。しかしながら、飼養頭数は減少傾向にあり、他の和牛品種と比べ改良が進んでいないことが問題である。今後、日本短角種を優良な地域特定品種として短期間に改良するには、胚移植等の効率的な利用が有効と考えられる。 生体内卵子吸引(ovum pick up: OPU)−体外胚生産(in vitro production: IVP)は、生体から反復した胚生産を可能とするが、日本短角種への適応は極めて少ない。日本短角種で効率的なOPU-IVP確立のため、黒毛和種との比較において日本短角種での特徴を調べる。

[成果の内容・特徴]

  1. 日本短角種では卵胞数が少ないため採取卵子数は少ない。しかし、卵子の採取効率は黒毛和種と同等で、IVPに利用できる卵子(A、Bランク)の比率は高い(表1)。
  2. 日本短角種では胚の発生数は少ない。これはIVPに利用できる卵子数が少ないためである。しかしながら、その発生率は黒毛和種と同等以上である。(表2)なお、IVPではそれぞれの品種の凍結精液を用いている。
  3. 両品種とも卵胞数(各品種4頭ずつ;表1)および胚盤胞期胚の発生率(日本短角種8頭、黒毛和種6頭;表2)は個体間で有意(P<0.01)な差がある。
  4. 日本短角種でのみ、ABランク卵子の比率は初回(52.1±4.3;最小自乗平均±標準誤差)が2回目以降(66.3±4.3〜78.0±4.3)より低い(P<0.05)。
  5. 培養卵子数が4個以下では胚盤胞期胚の発生率が低下する(図1)。日本短角種ではこのような個体は全体の35.5%を占め、この割合は黒毛和種の約3倍にも及ぶ。良好な胚生産のため、日本短角種では採取卵子数の多い個体の選抜が特に重要と考えられる。
  6. 2種類の凍結精液を用いた胚の発生成績を比べると両者で異なる(図2)。この結果は、良好な胚生産に関して、IVPで使用する凍結精液の重要性を示している。

[成果の活用面・留意点]

  1. 日本短角種および黒毛和種でOPU-IVPによる胚の生産を行う際の参考となる。
  2. 卵子の採取効率は安定していることから、繁殖検査時に卵胞数の計測を行うことで採取卵子数が推定できる。また、その記録は優良供卵牛の選抜に有効である。

[具体的データ]

[その他]

  • 研究課題名: 優良遺伝資源の有効利用による改良増殖システムの開発、 ウシ卵母細胞の安定供給技術の開発
  • 課題ID:05-01-04-(01)-19-04、05-05-05-01-08-04
  • 予算区分: 日本短角種、交付金
  • 研究期間:2002〜2006年度、2002〜2004年度
  • 研究担当者:
    1. 竹之内 (2002) 畜産技術 566:38-41.
    2. 竹之内ら (2003)東北農研センター報告 102:81-89.