堆肥連用水田土壌の窒素安定同位体自然存在比の30年にわたる推移
[要約]
堆肥の窒素の安定同位体自然存在比(δ15N値)はその材料、腐熟度を反映する。水田土壌のδ15N値は堆肥無施用を続けると低下し、稲わら堆肥連用でほぼ一定に推移、家畜ふん堆肥連用で上昇する。
[キーワード]
長期連用、堆肥、水田土壌、窒素、安定同位体自然存在比
[担当]
東北農研・水田利用部・水田土壌管理研究室
[連絡先]
電話0187-66-2775、電子メールmizuhiko@affrc.go.jp
[区分]
東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料
[分類]
科学・参考
[背景・ねらい]
堆肥等有機物、化学肥料、土壌の窒素の安定同位体自然存在比(δ15N値)が異なることを利用し、δ15N値を施用堆肥、施肥窒素の動態解明、また有機農産物の判別に用いることが試みられている。家畜ふん堆肥等の施用により土壌のδ15N値が高くなることは知られているが、長期連用中の水田土壌のδ15N値が変化する過程を明らかにした例はない。そこで、1968年から行っている稲わら堆肥連用試験と、1973年から行っている家畜ふん堆肥連用試験に用いた堆肥と水田土壌のδ15N値の推移を調査する。
[成果の内容・特徴]
- 施用した稲わら堆肥の窒素の安定同位体自然存在比(δ15N値)は1981年以降ほぼ一定(約5‰)である(図1)。
- 施用した家畜ふん堆肥のδ15N値は未熟牛ふん堆肥であった1980年代初期は約6‰、完熟牛ふん堆肥となった1980年代中期〜1997年は約11‰、鶏、豚、牛の3畜種混合堆肥である1998年以降は約17‰とその腐熟度、畜種により異なる(図1)。
- 堆肥無施用を続けると土壌のδ15N値は低下し、約30年間で約3‰から約2‰へと低下する。さらに窒素質肥料を施用するとそれよりも低く推移し続ける(図2、3)。
- 稲わら堆肥の連用により土壌の窒素含有率は増加し、稲わら堆肥2t/10a以上の連用では土壌のδ15N値は約30年間ほぼ一定の3〜3.5‰で推移し続ける(図2)。
- 家畜ふん堆肥の連用により土壌の窒素含有率は増加し、土壌のδ15N値は約30年にわたって上昇し、3〜4‰から6〜7‰へと変化する(図3)。
[成果の活用面・留意点]
- 堆肥等有機物、化学肥料の窒素動態の解明にδ15N値を利用しようとする研究の基礎的な情報となる。
- 堆肥連用水田の土壌は細粒灰色低地土である。
[具体的データ]
![]() |
![]() |
![]() |