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DSSATモデルによる淡色黒ボク土の水分・地温と無機態窒素の簡易予測

[要約]

DSSATモデルにおいて、実測した水分保持パラメータと計算から得られた流出曲線番号(表面流去の割合)、蒸発量上限、1日の排水率を用いて体積水分率を予測すると、計算値のみで予測した場合と比べて、土壌水分予測は大幅に改善される。地温予測はアルベドなどを用いて経験式で行う。

[キーワード]

DSSAT、シミュレーション、体積水分率、淡色黒ボク土、地温、無機態窒素、有機物

[担当]

東北農研・畑地利用部・作付体系研究室

[連絡先]

電話024-593-6177、電子メールhasegawa@affrc.go.jp

[区分]

東北農業・生産環境(土壌肥料)、共通基盤・土壌肥料

[分類]

科学・参考

[背景・ねらい]

シミュレーションは有効な研究手法であるが、輪作など複雑なシステムに適用するにはシミュレーションに必要なパラメータや初期値は少なく、かつ適切に設定されることが望ましい。輪作モデルの1つDSSAT(Decision Support System for Agrotechnology Transfer)は、簡略な土壌、気象、16種類の作物サブモデルから構成され、輪作研究や生産現場において「仮に・・・をしたらどうなるか」という栽培管理上のシナリオに対する回答を得ることができる。しかし、DSSATは日本に特徴的な黒ボク土に適用されたことはなく、シミュレーション結果を実測値と比較することで予測が適切であるか検証する必要がある。

[成果の内容・特徴]

  1. シミュレーションを行うには、表1に示す気象、地理および土壌に関するパラメータ、土壌および有機物に関する初期値が必要である。さらに、シミュレーション期間の日最高気温(℃)、日最低気温(℃)、日積算日射量(kJ/m2)、日降水量(mm)を用意する。
  2. ファンクショナルモデルによる土壌水分予測に必要なパラメータは、水分保持パラメータ、表面流去する降雨の割合、蒸発量上限、1日の排水率で、土性、土壌断面の情報、粘土・シルト・砂比率、飽和透水係数などから計算によって得ることができる(表1)が、淡色黒ボク土では計算値に基づくシミュレーション値は実測値を大幅に下まわる。淡色黒ボク土の水分保持パラメータを実測してシミュレーションすると、土壌水分の推移予測は大幅に改善される(図1)。
  3. 地温の推移は、経験式に基づきアルベドと夏冬の気温較差などにより8月まではほぼ正確に予測できる。秋から冬にかけては地温低下の傾向は予測できるものの、実測値を最大で5℃上まわる(図2)。
  4. 鶏ふん入り牛ふん堆肥(33 ton乾物/ha)、緑肥(クリムソンクローバ、4.6 ton乾物/ha)施用後の無機態N実測値は、鋤込み後1−2ヶ月に大きなピークを示しその後減少する。予測値は無機態N動態の増加ピークをうまく予測できないが、その後の減少予測は実測値とよく適合する(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. DSSATはICASA(http://www.icasa.net/)から入手できる。
  2. 2. 圃場試験は裸地条件で2000〜2001年にかけて東北農業研究センター福島拠点で行った。排水条件は良好である。非黒ボク土では土性などから計算した水分保持パラメータを使ってシミュレーションできる。地温の予測誤差は窒素動態に大きな誤差を生じない。土壌無機態Nの推移が正確に予測できれば作物生育やN吸収の予測も問題ないことを確認している。有機物施用後の窒素動態を予測するために、有機物の組成(リグニン、セルロース、タンパク質など)を入力することが可能である。

[具体的データ]

 

[その他]

  • 研究課題名: 耕畜連携農場を用いての物質循環収支手法の開発
  • 課題ID:05-03-01-(01)-04-04
  • 予算区分: 交付金
  • 研究期間:2001〜2004年度
  • 研究担当者: 長谷川浩