小麦品種「あけぼのもち」および「いぶきもち」におけるもち性の原因
[要約]
「あけぼのもち」および「いぶきもち」のもち性は、「関東107号」由来のWx-A1 とB1 遺伝子の発現欠失に加え、新たに生じたWx-D1 遺伝子の欠失が原因である。
[キーワード]
もち性コムギ、DNAマーカー、Wx-D1 遺伝子、欠失、7D染色体
[担当]
東北農研・作物機能開発部・生物工学研究室
[連絡先]
電話019-643-3514、電子メールgoro@affrc.go.jp
[区分]
東北農業・生物工学、作物・冬作物、作物・生物工学
[分類]
科学・参考
[背景・ねらい]
コムギは、種子のアミロース合成に関与する3つのWx 遺伝子(Wx-A1、B1、D1)を持っており、それらの発現を1つあるいは2つ欠くと、アミロース含量が低下して小麦粉の製麺適性が向上する。そのことから、Wx 遺伝子の変異を同定するDNAマーカー(Nakamuraら,2002)を用いた選抜が育種現場で開始されている。「あけぼのもち」(谷系H1881)および「いぶきもち」(H1884)はこれまでもち性の原因が不明であったため、このマーカーでは選抜できないと考えられていた。しかし、最近、これらのもち性コムギの変異についても、Wx-D1 遺伝子由来のPCR増幅産物の有無としてこのDNAマーカーで判別できることが明らかとなった。そこで、これらもち性コムギの出現時点にまで遡ってWx-D1 遺伝子およびその近傍の変異について詳しく調査する。
[成果の内容・特徴]
- もち性コムギ6系統(H1881〜5、H2541)は、少なくとも倍加2世代目にはWx-D1 遺伝子を欠失していたと考えられる(図1A,B)。
- Wx-D1 が座乗する7D染色体短腕上に作成した4つのPCRマーカーのうち、Ss3(t)、RD2およびRP4は全ての谷系のもち性コムギで欠失していることから、この変異は7D染色体短腕末端の大きな欠失と考えられる(図2)。
- BP1は、「H1881」と「H1882」では7D染色体由来の断片が得られるのに対し、他の谷系のもち性コムギでは得られない(図1C)。なお、「H1881〜5」は草型や出穂期から「H1881〜2」と「H1883〜5」とに分けられ、この分類はBP1の多型と一致している。
- 倍加半数体の作出過程において、「H1881〜2」、「H1883〜5」および「H2541」の少なくとも3回、Wx-D1 遺伝子を含む大きな欠失が別々に生じたと考えられる。
[成果の活用面・留意点]
- あけぼのもち」あるいは「いぶきもち」を交雑親とした分離集団では、Wx-B1 遺伝子の変異の有無を判別できるDNAマーカー(BDFL&BRDプライマー;Nakamuraら, 2002)を用いて、Wx-D1 遺伝子の変異の有無も同時に判別することが可能である(図1A)。
- 谷系A6099」を片親に用いた倍加半数体作出の過程でのみ、7D染色体短腕末端の欠失が複数回生じていること、且つこれらの欠失点は近いと推定されることから、相当大きな領域で欠失が起こる機構の解明に活用できる。
[具体的データ]
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