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イタリアンライグラスにおける花粉源からの距離と交雑率との関係

[要約]

 イタリアンライグラスにおいて雄性不稔個体で花粉源から450m、花粉稔性のある小集団で71mの距離で交雑が認められるので、暖地など主要栽培地で広く分布しているライグラス自生集団への組換え体からの距離隔離による遺伝子拡散防止は難しい。

[キーワード]

イタリアンライグラス、花粉飛散、組換え体、交雑、雄性不稔

[担当]

東北農研・飼料作物育種研究東北サブチーム

[連絡先]

電話019-643-3563、電子メールwww-tohoku@naro.affrc.go.jp

[区分]

東北農業・畜産、畜産草地

[分類]

研究・参考

[背景・ねらい]

 イタリアンライグラスは、飼料作物栽培のほか、放牧地や緑地で利用されており、遺伝子組換え体植物の多様な場面での利用が想定される。組換え体の利用おいては、環境に影響を与えないように遺伝子の拡散を防ぐ必要がある。本研究では、イタリアンライグラスの花粉飛散による、同種の非農耕地自生集団や栽培圃への遺伝子拡散の可能性を検討する。

[成果の内容・特徴]

  1. 花粉源から距離が大きくなるに従って、花粉受容個体(雄性不稔個体)の種子稔実率は低下し、150mで平均1%程度まで低下する。しかし、それ以上の距離ではその低下は僅かにとどまり、450mでも稔実種子が観察される(表1)。
  2. 花粉受容個体(雄性不稔個体)の栄養系(遺伝子型)によって種子稔実率に変異がある。多くの栄養系では100m程度で1%程度に低下する中で、高稔実率の栄養系@が見られる。しかし、これも300m以上で他のものと同程度になる(図1)。
  3. 温暖地・暖地で広く圃場外にみられる雑草等自生集団への花粉飛散を想定して、ライグラス根の蛍光反応性発現によって花粉飛散距離と交雑との関係を調べたところ、41mで10%以上、71mで約4%の蛍光反応陽性個体が検出できる(図2)ことから、一定の競争受粉条件でも花粉が飛散すれば交雑する。
  4. イタリアンライグラスは春から夏にかけて継続的に出穂し、花粉を飛散させる。栽培面積が多い温暖地・暖地の水田や畑の周辺部や河川敷、公園などではイタリアンライグラス、ペレニアルライグラス及びその雑種が高頻度に自生しているので、花粉飛散による遺伝子拡散を防ぐために、数百m以上の隔離距離を確保することは極めて難しい。そのため、組換え体開発の際には雄性不稔系統の利用など花粉飛散を抑制する対策が必要である。

[成果の活用面・留意点]

  1. ライグラス類の組換え体開発及び利用のための資料として利用する。
  2. 花粉飛散距離は地形や気象条件等によって変動し、花粉源の大きさ、受容個体の調査規模によって拡大する可能性が高いので、本データから安全距離を推定して一般化することは危険である。そのためには事例の蓄積が必要である。

[具体的データ]

表1.花粉源からの距離と雄性不稔個体の種子稔実率図1.雄性不稔栄養系の種子稔実率と花粉源からの距離

図2 .自生集団への交雑を想定した花粉源(Fl +)からの受粉個体率

[その他]