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北日本における4月と8月平均気温は1998年以降強い負の相関関係を示す

[要約]

1998年以降北日本では、4月の低温と8月の高温もしくは4月の高温と8月低温の組み合わせが大部分である。高層大気場、海水面温度との統計解析から、この関係は北半球規模の現象に起因していること、1998年は気候シフトの年であることがわかる。

[キーワード]

北日本、4月8月気温、亜熱帯ジェット気流、1998年、気候シフト

[担当]

気候変動対応・気象災害リスク低減

[代表連絡先]

電話019-643-3408

[研究所名]

東北農業研究センター・生産環境研究領域

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

近年の北日本における夏季気温は年々の変動が大きく、冷夏と暑夏が頻発している。また、春季もしばしば低温に見舞われ、両季節における天候変動の農業への影響は無視できない。そこで両季節を中心として、最近の北日本の気温の変動に系統的な関係が認められるのか否か検討した。有意な相関関係が得られる場合、中長期気象予測に反映され、かつ農業へも役立つ情報となる可能性がある。

[成果の内容・特徴]

  1. 北日本における1月から12月までの各月間で、1950年以降2011年まで13年の移動相関係数を計算すると、4月と8月平均気温には、1998年以降、強い負の相関が認められる(図1)。すなわち、1998年以降の両月の気温は4月低温−8月高温もしくは4月高温−8月低温の組み合わせが大部分である。1998〜2013年までの16年間の相関係数は-0.83である。8月と9月も高相関を示すが季節が近いので解析は割愛する。
  2. 北日本8月平均気温偏差と4月の大気上層の流れを示す北半球200hPa高度には、中国北東部、西シベリア、アリューシャン列島、南ヨーロッパ等広範囲で有意な相関が認められる(図2)。すなわち、北日本における4月と8月気温の負の相関関係は、局地的に発現している現象ではなく、北半球規模での現象に原因があると推測される。
  3. 北日本における4月8月気温の関係は、亜熱帯ジェット気流の強弱と位置の変動が対になって起こることが原因と考えられる。すなわち、8月が高温の場合、その前の4月には本州南岸の亜熱帯ジェット気流が強化されており(図3)、寒帯気団の南下による低温がもたらされる。8月には北海道の北に位置する亜熱帯ジェット気流は北上し、寒気の南下の阻止と熱帯気団の北上を反映して高温をもたらす。4月高温−8月低温の場合は上記と逆で、4月には亜熱帯ジェット気流が弱く寒気が南下せず高温を、8月には亜熱帯ジェット気流が南下し、寒気の南下と低温をもたらす。
  4. 特異値分解(SVD)解析を200hPa高度場と海面水温(SST)の6〜8月について行なうと、1998年は近年の顕著な気候シフトの一つとして検出される(図4;縦軸は各モードのスコアを示す)。4月と8月平均気温の関係についても、1997年以前には統計的に有意な関係は認められない。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本現象の根本的な原因については、エルニーニョ南方振動(ENSO)や北大西洋振動 (NAO)等により励起されるテレコネクションパターンが考えられるが、その詳細は不明である。
  2. コムギの例では、4月の低温で8月の高温による収量減を予測し、あらかじめ春に茎数調整の対策をとるなどの方策が考えられ、これ以外の多くの農作物でも栽培技術上多様な有効利用が可能であると期待される。

[具体的データ]

(菅野洋光)

[その他]

中課題名
気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
中課題番号
210a3
予算区分
交付金、委託プロ(温暖化農業適応、気候変動適応研究推進プログラム)、科研費
研究期間
2011〜2013年度
研究担当者
菅野洋光
発表論文等
1) Kanno, H. (2013) J. Met. Soc. Japan, 91: 355-373