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繁殖和牛生体体表から筋肉中の放射性セシウム濃度を推定する装置

[要約]

本装置は、牛の保定枠場、鉛の遮蔽体及び可動式コリメータ付き検出器が一体となっており可搬式である。ゲルマニウム半導体検出器による牛肉測定と同等の精度で、繁殖和牛生体から筋肉中放射性セシウム濃度を推定できる。

[キーワード]

筋肉中放射性セシウム濃度、推定技術、可搬式、NaI検出器

[担当]

福島県農業総合センター畜産研究所

[代表連絡先]

電話024-593-1223

[区分]

東北農業・畜産飼料作

[分類]

普及成果情報

[背景・ねらい]

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、福島県では、廃用予定の繁殖雌牛の出荷に当たり 、出荷予定農家の飼養管理状況を確認すると同時に、血液検査により筋肉中放射性Cs(セシウム)濃度を推定した後、出荷を許可している。しかし、Ge半導体検出器の台数が限られているため検査に時間がかかり、牛が滞留する期間が長くなるなど農家に更なる経営的負担を強いている。このため、迅速かつ正確に繁殖和牛の出荷時期を特定することを目的に、生体体表から筋肉中の放射性Cs濃度の簡易な推定技術および可搬式の牛用体内放射線汚染量測定装置を開発し、効果を明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 開発した装置は、牛の削蹄用保定枠場をモデルに作成し、鉛の遮蔽体および可動式コリメータ付検出器が一体となっている(図1)。検量線等を作成するための繁殖和牛用模型は、繁殖和牛の最大幅である腰角幅(38ヶ月齢52.0cm)を参考に口径52.1cm、全高88cmのポリドラムカン缶を採用し、バックグラウンド測定用として水のみのもの、放射性Cs濃度(Cs-137+Cs-134)25、50、100、120Bq/kgに調整したものを用いる。 データの解析は、Gamma Studio DS-P600(SEIKO EG&G)及びCode Fukushima(仁木工芸株式会社・株式会社スカラベ・コーポレーション)にてピーク面積解析を実施する。
  2. 本装置に取り付けるNaI検出器の口径として2インチ、2.5インチ、5インチを比較した結果、口径が大きくなるにつれて、検出限界濃度は低下する(図2)。このため、本装置には5インチNaI検出器を採用した。濃度算出のための検量線は、図3を用いている。
  3. 本装置で各牛模型の放射性Cs-137およびCs-134を測定した値(ネットカウント:ROI設定した領域におけるグロスカウントからバックグラウンドを引いた値)とGe半導体検出器で測定した値から作成した検量線(y=0.13x)は非常に高い相関(R2=0.99)を持つ(図3)。
  4. 本装置を汚染飼料を給与した繁殖和牛の筋肉中の放射性Cs濃度に適用すると、Ge半導体検出器で測定した牛肉の実測値と高い精度で一致する(表1)。

[普及のための参考情報]

  1. 普及対象:肉用牛生産者、セリ開設組合、食肉流通関係団体
  2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  3. その他:装置の設置場所としては、空間線量率0.15μSv/h以下が望ましい。測定時間は、5分以上が推奨されるが、条件によっては時間短縮可能である。

[具体的データ]

(福島県)

[その他]

研究課題名
NaI サーベイメータを用いた牛生体中放射性セシウム濃度の簡易推定
予算区分
JST マッチング促進プログラム、県単
研究期間
2012〜2013 年度
研究担当者
古閑文哉、石川雄治、内田守譜、佐藤亮一、白石芳雄(福島農業セ畜産研究所)、遠藤孝悦(福島県南会津農林事務所)、大槻勤(京都大)、高瀬つぎ子(福島大)、河津賢澄(福島大)、立谷辰雄(株コムテックエンジニアリング)、菅原裕利(株コムテックエンジニアリング)、村山敏(株日環研)、茂木道教(株日環研)、泉雄一(株日環研)、移川隆行(株日環研)、石橋寿永(株ラドソリューションズ)
発表論文等
Ohtsuki et al.(2013)Apsorc-13 5thAsia Pacific Symposium on Radiochemistry ※特許出願中