- [要約]
- 多雨寡日照によるナシ「幸水」の果実品質と花芽着生率の低下は、果実肥大率の推移による診断が適する。その指標は当年の満開後60日目からの果実肥大率が、平年との差で−8%に達したときである。
広島県立農業技術センター・果樹研究所・落葉果樹研究室
[連絡先] 0846-45-1225
[部会名] 果樹
[専門] 栽培
[対象] 果樹類
[分類] 指導
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[背景・ねらい]
- ナシ「幸水」は、夏期の多雨寡日照により果実品質が低下し、価格が低迷する。また、花芽着生率の低下が起こり、翌年の生産が不安定となる。しかし、この被害を最小限にするための早期診断指標は明らかにされていない。そこで、土壌の多湿および寡日照条件による葉色、新梢の発育、果実肥大率の低下程度と果実品質および花芽着生率との関係を解明し、当年と平年との果実肥大率の差を利用した診断指標を作成する。
[成果の内容・特徴]
- 土壌の多湿と寡日照条件による樹体の反応は、葉色や新梢の発育よりも果実肥大に及ぼす影響が大きい。この果実肥大の推移は、園内から代表樹を3樹選び、1樹当り10果合計30果をノギスによって簡便に測定できるので、現場の診断指標として適する。
- 冷夏長雨年(1993年)のナシ「幸水」に発生した果実品質と花芽着生率の低下(平年に比べて果実重が最大11%、果実糖度が1.5%、新梢の腋花芽の着生率が38%低下)は、遮光率75%(棚面の照度14000 lx以下)でみられる(表1)。
- ナシ「幸水」に満開後60日目から75%遮光条件(棚面の照度19000 lx以下)を14日以上与えると、果実肥大率が10%以上低下し、無遮光に比べて果実重が12%以上、果実糖度が0.2%以上、腋花芽着生率が28%以上低下する(表2)。この条件により1993年のナシ「幸水」に発生した果実品質および花芽着生率の低下を再現できる。
- 診断年と平年との果実肥大率の差を用いた計算式により、冷夏長雨年と平常年をそれぞれ2年ずつ診断すると、冷夏長雨年には一部の園地を除き、10%以上の果実肥大率の低下がみられるので、被害の早期診断指標として利用できる(表3)。
- 以上のことから、冷夏長雨年に対するナシ「幸水」の果実品質と花芽着生率の低下防止のための早期診断指標は、診断年の満開後60日目からの果実肥大率が平年との差で−8%に達したときである。
[成果の活用面・留意点]
- 計算の基礎データとなる平年値の精度を高めるためには、毎年満開日を記録し、基準日となる満開後60日目並びに比較日となる70、80、90日目に必ず果実横径を測定する。
[その他]
研究課題名 : 果樹の根域環境改善と生育制御による高品質果実の持続的安定生産技術の確立
予算区分 : 地域重要新技術
研究期間 : 平成10年度(平成8〜12年)
研究担当者 : 中元勝彦、加納徹治、今井俊治
発表論文等 : なし
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