- [要約]
- ‘コシヒカリ’‘ときめき35’の収量に大きく影響を及ぼす、かんがい水中の塩分濃度はNaCl 750ppm(EC、約1.5 mS/cm)からである。塩害により最も収量に影響を受ける時期は最高分げつ期から幼穂形成期である。
島根県農業試験場・環境部・土壌環境科
[連絡先] 0853-22-6650
[部会名] 生産環境(土壌・気象)
[専門] 土壌
[対象] 稲類
[分類] 指導
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[背景・ねらい]
- 宍道湖、中海は汽水湖であるため、沿岸の水稲栽培地帯では渇水期に、かんがい水として湖水や湖水の混ざった河川水を利用せざるを得ない状況が発生する。また、過去には気象的条件により潮位が上昇し、塩分濃度2000ppm程度の湖水が水田へ流入した事例もあり、これらに起因する塩害が問題になっている。また、塩害についての試験研究は古くからあるが、最近の品種について行われたものは見あたらない。そこで島根県の主力品種である‘コシヒカリ’‘ときめき35’の塩分耐性について検討する。
[成果の内容・特徴]
- ‘コシヒカリ’の吸水力は、塩分(NaCl)処理濃度が高いほど低下する。無処理区に対する吸水速度の差は1000 ppmから大きくなり、2000 ppmを超えると大差がなくなる(図1)。また、収穫時の茎葉の塩素含有率は1000 ppm処理区で0.83%(8300 ppm)と水稲の過剰障害判定基準の約3倍の含有率を示し、処理濃度が高いほど増加する(図2)。これらのことから、かんがい水中の塩分濃度が1000 ppmを超えると根の活性が大きく低下し、根の塩分排除機能に影響を及ぼし、生育に影響するものと推察される。
- 塩水の処理時期が根の吸水力に与える影響は、幼穂形成期に最も大きくなる。また、精玄米重に与える影響は、最高分げつ期が最も大きく、次いで幼穂形成期、移植後20日の順である(図3)。これらのことから最高分げつ期から幼穂形成期が、塩害を最も受けやすい時期であると考えられる。
- 1000 ppm以下の低濃度では、‘コシヒカリ’‘ときめき35’ともに、塩分濃度が高くなるほど精玄米重は減少する。この傾向は、750 ppmから顕著になり、‘コシヒカリ’で16 %、‘ときめき35’で21 %減少する(表1)。両品種とも、この程度の塩分濃度では、下葉の枯れ等の塩害による顕著な症状は認められない。また、収量構成要素では穂数の差異はみられず、1穂籾数の減少、玄米千粒重の低下が大きな減収要因となる。
[成果の活用面・留意点]
- 従来の知見より低濃度で収量に影響が現れることが明らかとなり、塩害地におけるかんがい水管理指導上の参考となる。
- 本試験は水田ほ場と違い、減水深のない状態で連続的に処理した条件下での試験であることを考慮する必要がある。
[その他]
研究課題名 : 水稲の塩害防止のためのかんがい水管理基準設定試験
予算区分 : 県単
研究期間 : 平成10年度(平成8〜10年)
研究担当者 : 道上伸宏、伊藤淳次
発表論文等 : なし
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