水田作土深が水稲の窒素吸収に及ぼす影響


[要約]
水稲の窒素吸収は、作土深が深くなるほど生育後期に増加する。このため、玄米収量を向上させ、玄米窒素濃度を低下させるためには、作土深15cmを基準にとると、作土が浅い場合は、基肥、追肥の増肥が、深い場合は追肥の減肥が必要である。
山口県農試・環境部・土じょう肥料研究室
[連絡先] 0839-27-0211
[部会名] 生産環境(土肥・気象)
[専門]    肥料
[対象]    稲類
[分類]    研究

[背景・ねらい]
 水稲収量及び食味品質を安定的に向上させるためには、土壌窒素の供給量を考慮し、気象や水稲の生育状況に応じた適正な施肥を行う必要がある。ところが生産現場の水田作土深は様々であり、作土深の違いは水稲の窒素吸収に大きな影響を与えていると思われる。そこで、適切な施肥法を検討するため作土深の違いが土壌窒素の供給と水稲の窒素吸収に及ぼす影響を明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 面積当たりの土壌窒素無機化量は、地温が低い6月上旬に、作土深15cm、 20cmが作土深10cmのそれぞれ1.1 倍、1.2 倍であり、それ以降は作土深10cmのほぼ1.5倍、2倍となる(図1)。
  2. 水稲の窒素吸収は窒素無施肥では作土深20cmに比べて、作土深10cmが移植40日後から、作土深15cmが移植55日後から低下する。窒素吸収量は、作土深15cm、 20cmがそれぞれ10cmの1.3 倍、1.6倍になる(図2)。
  3. 水稲の生育状況は、窒素吸収量とほぼ同様に移植1ヶ月後より作土が深いほど、生育量が増加する(図3)。また、窒素施肥の作土深20cmは、登熟期以降に一部倒伏が見られる。
  4. 玄米窒素量は、収穫1ヶ月前では作土深の差は小さいが、収穫期では作土深が深いほど多くなる(表1)。一方、施肥窒素の玄米移行率も、収穫1ヶ月前から作土深が深いほど高くなる(表1)。
  5. 食味品質と関連が深い収穫期の玄米窒素濃度は、作土深20cm>15cm>10cmの順で高くなる(表1)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 作土深は鋤床層までの深さのことで、耕起深とは異なる。
  2. 下層土の影響については考慮していない。
試験区の概要 [具体的データ]

[その他]
研究課題名 : 水稲の栄養診断による良食味安定生産技術の確立
予算区分    : 県単
研究期間    : 平成10年度(平成8年〜11年)
研究担当者 : 久保喜昭、渡辺卓弘
発表論文等 : 1998年度日本土壌肥料学会大阪大会で口頭発表
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