酒米新品種「吟吹雪」


[要約]
「吟吹雪」は「日本晴」より晩熟の中生の晩熟期の酒造用品種である。良質多収で、山田錦と遜色ない酒造適性を有し、特に吟醸酒用として需要が見込まれる。地力中庸以上の県下中南部の平坦地への普及を図る。
滋賀県農業試験場・栽培部・作物育種係
[連絡先] 0748-46-3081
[部会名] 作物生産(育種・栽培)
[専門]    育種
[対象]    稲類
[分類]    普及

[背景・ねらい]
 本県で栽培されている酒米としては奨励品種の「玉栄」があるが、「玉栄」は心白の発現頻度が低く、吟醸酒には不向きである。一方、吟醸酒に向いている「山田錦」は長稈できわめて倒伏しやすいことや、本県では熟期が遅すぎるなどの問題があった。そこで、「山田錦」の栽培特性の改善を主たる育種目標とした組合せの後代より酒造用品種を育成した。

[成果の内容・特徴]

  1. 1984年に「山田錦」を母、「玉栄」を父とし交配を行った。1989年に収量試験番号「大育酒685」を付し、翌1990年からは奨励品種決定調査に供試し、1991年には地方番号「滋系酒56号」を付し現地試験等でその特性を調査、1998年に「吟吹雪」と命名した。
  2. 「日本晴」より1週間程度晩熟の中生の晩に属する粳種である。
  3. 稈長は「玉栄」および「日本晴」に比べて5〜6cm長く、偏穂重型の草型を示す(表1)。
  4. 収量性は「玉栄」および「日本晴」に比べ高い。
  5. 玄米の外観品質は「玉栄」より心白の発現が良好であり、良質である。玄米千粒重は「玉栄」に比べ小さいが、「山田錦」より大きい。
  6. 耐倒伏性およびいもち病ほ場抵抗性は「玉栄」より強く「日本晴」と同等の中である。
  7. 穂発芽性は「玉栄」と同等のやや易であり、「日本晴」より劣る。
  8. 酒造適性は「山田錦」に遜色なく、吟醸酒としての適性が高い(表2)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 地力中庸以上の県下中南部の平坦部に適する。なお、普及面積は2001年度に100ha(県下水稲作付け面積の0.3%)を目標とする。偏穂重型の草型を示すことから、安定的な収量を得るには、地力中庸以上の地帯での作付けが望ましく、秋落田では作付けを避ける。また、熟期が遅いため、秋冷の早い地域での作付けは登熟不良となり減収することがあるので注意する。いもち病抵抗性が十分でないので、常発地での作付けは注意する。
  2. 穂肥前に肥料切れによって生育が抑制されると極端に減収する場合があるので、追肥もしくは肥効調節型肥料によって肥効を維持し、葉色の低下を防ぐ。穂肥は出穂前25日に適量を施用し、それ以降の施肥は酒造適性の低下を招くので、避ける。
  3. 熟期が遅いので、出穂後の水管理には十分注意する。特に早期落水を避け適期刈り取りに努め、胴割れ粒の発生を防止する。
  4. 調製は、米選機の網目を2.00mm以上とする。

[その他]
研究課題名 : 水稲新品種育成試験
予算区分   : 県単                
研究期間   : 平成10年度(昭和59〜64年)        
研究担当者 : 小原安雄、谷口真一、吉澤 清
 
研究課題名 : 水稲奨励品種決定調査
予算区分   : 国庫補助
研究期間   : 平成10年度(平成2〜5年)
研究担当者 : 寺本 薫、谷口真一、堀口清博、川村戈十二、辻 藤吾、吉澤 清
発表論文等 : 滋賀県農業試験場研究報告、第37号、1-10、1996.
                    酒米新系統「滋系酒56号」の酒造適性(黄桜酒造株式会社)、平成8年度日本醸造学会大会講演要旨集、1、1997.
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