- [要約]
- 米粒からのDNA抽出を行うに当たって、ペンチで砕いた米粉に直接抽出液を加えることにより簡便化できる。抽出条件は、60℃で1時間保温が効果的であるが、室温でもPCRの鋳型DNAとしては、十分量のDNAが得られる。このDNAを用いたRAPD解析により酒米の品種判別が可能であった。
兵庫県立中央農業技術センター・生物工学研究所・第1研究室
[連絡先] 0790-47-1117(内線362)
[部会名] 生物工学
[専門] バイテク
[対象] 水稲
[分類] 指導
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[背景・ねらい]
- 酒米の「山田錦」は高い評価を得ているため、流通段階で米の品種鑑定ができることは極めて重要である。近年、米粉から抽出したDNAを用いたRAPD解析により、品種判別が可能であることが報告されている(大坪 1997, 荒巻 1998)。しかし、DNAの抽出に当たって、その操作手順が煩雑であったり、高価な試薬が必要であることから、手法の改善が求められる。
[成果の内容・特徴]
- 従来の米粒からのDNA抽出法は、吸水処理およびホモジナイズの段階が非常に困難であったが、厚手のアルミホイールに挟み込んだ米粒をペンチで砕き、直接抽出液を加えることにより簡便に処理することができる(図1)。
- 抽出条件については、室温での静置でも可能であったが、60℃で保温することで、より短時間で効率的な抽出が行える。 抽出DNA量は、室温1時間抽出で米一粒当たり約250ngであるのに対して、60℃処理では、約2倍の500ngである。また、フェノール/クロロフォルム処理は、抽出DNA量には、影響がない。
- PCRは、95℃(1分), 40℃(1分), 72℃(1分30秒)を1サイクルとして、 45サイクル行う。PCR反応は、一サンプル当たり25μlの反応液に0.25unitのAmpriTaq Gold (Perkin Elmer)を加えて行う。各抽出条件から得たDNA溶液を用いたPCR産物を比較した結果、フェノール/クロロフォルム処理を行わない場合、比較的長いDNA領域の増幅率が低下する傾向を示す(図2)。
- 精米歩合の異なる米からのDNAを用いたPCR産物を比較した結果、精米歩合の高い米から抽出したDNAを用いた方がより明瞭な泳動像が得られる(図3)。
- 酒米5品種の米粒からの簡易抽出DNAによるRAPDでは、生葉から抽出した高純度DNAにおいて検出された多型バンドと同一のバンドが検出され、品種の判別が可能である(図4)。
[成果の活用面・留意点]
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DNA抽出において、フェノール/クロロフォルム処理は省略できるが、その場合、沈殿をTEで溶解する段階で、不溶性物質が残存する。また、比較的長い増幅産物による判定を行う場合は、フェノール/クロロフォルム処理を行った方がよい。
[その他]
研究課題名 : 植物の親子診断および病害微生物検定のための遺伝子診断法の開発
予算区分 : 県単
研究期間 : 平成10年度(平成10〜14年)
研究担当者 : 吉田晋弥、塩飽邦子
発表論文等 : なし
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