- [要約]
- 各地から採取したササユリの葉からDNAを抽出し、RAPD分析により比較すると、島根県内のササユリは自生地による遺伝的差異は認められず、また、これらと愛媛県産との間には差は認められなかったが、葉身長と葉身幅の比の値が大きな奈良、和歌山、静岡県のものとは大きな遺伝的差異が認められた。
島根県農業試験場・作物部・生物工学科
[連絡先] 0853-22-6650
[部会名] 生物工学、野菜花き
[専門] バイテク
[対象] 花き類
[分類] 研究
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[背景・ねらい]
- ササユリは西日本に広く分布しており、花色、香り、開花時期など育種素材として有用な形質をもっている。島根県内に自生するササユリをもとに品種改良を行う場合の育種素材を選定するための基礎データとして、県内の自生地による遺伝的差異、あるいは他県産のものとの差異を明らかにしておくことは重要である。
- そこで、各地から採取したササユリをRAPD分析によって比較した。
[成果の内容・特徴]
- 島根県内各地、愛媛、奈良、和歌山、静岡県に自生するササユリ(図1)とオトメユリ、ヤマユリ、サクユリの葉切片から市販のDNA抽出キット(ISOPLANT、ニッポンジーン)により全DNAを抽出する。
- PCRは、独自に設計した11種類の10塩基ランダムプライマーを用いて、再現性を高めるために Ampli taq Gold(Perkin-Elmer)を用いたホットスタート法で行い、反応条件は使用説明書に準拠し、酵素を活性化するための95℃9分間の高温処理後、変性94℃45秒、アニーリング43℃1分、伸長反応72℃1分で47サイクル行う。
- PCR産物は、1.5% Nusieve GTG アガロース(FMC BioProducts)と1% Agarose S(ニッポンジーン)を混合して作成したゲルを用いて、エチジウムブロマイドを添加したTAEバッファー中で電気泳動を行った後、UV照射下でバンドパターンを観察する。
- PCRは3反復以上行い、200bpから700bpのサイズで再現性のあるバンドをもとにして、各個体間の遺伝的類似度係数(2Nab/Na+Nb、Na、Nbはそれぞれに検出されるバンドの数、Nabは一致したバンドの数)を求め、UPGMAによるクラスター分析を行う。
- 葉の幅の広い(葉身長と葉身幅の比の値の小さい)島根県内自生地のササユリと愛媛県産は区別できない。これに対して、葉の幅の狭い奈良、和歌山、静岡県産のササユリは島根県産とは異なるクラスターに含まれる。特に静岡県産と島根県産の間には、対照としたオトメユリと島根県産のササユリにも匹敵する大きな遺伝的差異が認められる。(図2)
[成果の活用面・留意点]
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ササユリを育種素材として利用する場合には、各地域のササユリの性質を十分に検討して利用する。
[その他]
研究課題名 : 中山間地域活性化のための山野植物資源の園芸化及び利用技術の確立
予算区分 : 地域重要新技術
研究期間 : 平成10年度(平成7〜10年度)
研究担当者 : 春木和久、名古洋治
発表論文等 : 島根県内および他県に自生しているササユリのRAPD分析、園芸学会雑誌、67、巻5号、785-791、1998.
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