[成果情報名]

黒毛和種の過剰排卵処理時の発情・排卵時期と人工授精適期

[要約]FSH-PGF2α処理後のstanding発情のピークは39.1±5.5時間である。排卵は発情ピークの早い個体が有意に早くなり、PG投与後72時間までに総排卵数の85%が起こった。また、胚の品質及びステージは発情ピーク時期及びAI時期・回数により影響を受ける。
[キーワード]過剰排卵処理、黒毛和種、standing発情、排卵、人工授精
[担当]京都碇高総牧・家畜部
[連絡先]0772-76-1121
[区分]近畿中国四国農業・畜産草地
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 牛の発情はLHサージと同時期に現れ、排卵はLHサージのピークからほぼ24h後に起こることから人工授精(AI)適期は発情を基準に判断される。一方、過剰排卵処理牛の場合は複数の卵胞の排卵が経時的に起こり、AIは通常PG投与後56及び72hの2回実施されているが、回収胚の品質及び発育ステージは採胚毎の差が大きい。そこで、過剰排卵処理牛の発情・排卵時期を調査し、AI1回及び2回の場合の胚の品質・発育ステージについて検討した。

[成果の内容・特徴]

    黒毛和種31頭を供試し、FSH-PGF2α(PG)処理後、ビデオレコーダーによりstanding発情の開始、ピーク(1時間当たりの乗駕許容回数が最も多い時間)、終了時間を調査した。また、超音波画像診断装置によりPG投与後56、72、80、96、104時間に卵巣を観察し、排卵状況を調査した。AIはPG投与後56時間の1回(15頭)と56及び72時間の2回(16頭)とし、凍結精液は同一ロットを使用した。採胚は初回AIから7日後に統一した。
  1. standing発情の開始は、PG投与後33.1±3.1、ピークは39.1±5.5、終了は46.8±4.3時間であった(図1)。
  2. standing発情のピークの平均時間で区分しPG投与後39時間までの群(1群)と39時間以降の群(2群)を比較したところ、総排卵数に対する排卵数の割合は、PG投与後56〜72時間では1群が、72〜96時間では2群が高かった。このことから、発情時期が早い個体は、排卵時期も早くなると考えられた(表1)。
  3. AI1回の場合、胚の品質は1群が優れ、ステージは進む傾向があった。しかし、AI2回の場合、胚の品質、ステージの差は両群間に認められなかった(表2)。
  4. 以上より胚の品質、ステージは発情・排卵時期とAI時期及び回数に影響されるので、排卵時期に合わせた人工授精により正常胚率、凍結可能胚率の向上が期待できる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 過剰排卵処理後の発情発現時期は同一FSH-PG処理プログラムで実施しても、個体差は非常に大きい。
  2. 発情発現時期が早い場合(PG投与後39時間前)はPG投与後56h後1回のAIで2回と同程度の品質の胚が得られ、発情発現時期が遅い場合はAI時期を遅らせるかあるいは回数を増やす必要がある。
  3. AI時期・回数及び精液注入量により、正常胚率が向上する可能性があり、更に検討していく必要がある。

[具体的データ]

図1

表1

表2


[その他]
研究課題名Gn-RH投与により卵胞をコントロールすることが過剰排卵処理及び採胚成績に及ぼす影響
予算区分国補
研究期間1999〜2001年度
研究担当者櫻田孝之、森田誠、戸田博子、森一憲、宮城信司、安達善則

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