[成果情報名]

施設栽培における堆肥大量施用に伴う窒素動態と環境負荷

[要約] 雨よけ施設でのホウレンソウ・コマツナの周年栽培において、おがくず牛ふん堆肥を15t/10a、5年間毎年施用した場合、作土層中に残る窒素は約4割で、下層への流亡及び脱窒、温室効果ガスである亜酸化窒素の発生がみられる。
[キーワード]牛ふん堆肥、施設栽培、窒素、亜酸化窒素
[担当]奈良農技・環境保全担当・土壌水質保全チーム
[連絡先]電話0744-22-6201、電子メールsoil@naranougi.jp
[区分]近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 リサイクルの観点から堆肥の有効利用が進められているが、堆肥の野積みや大量施用による地下水汚染の問題が生じたことから、近年は環境への影響が懸念され始めている。
  本来窒素流亡が懸念されにくい施設栽培においても、本県の盆地では田畑が混在化しており地下水位が高いため、影響があるのではないかと考えられる。そこで、施設栽培において堆肥を大量施用した場合の窒素の動きについて検討する。

[成果の内容・特徴]

  1. ホウレンソウ・コマツナの周年施設栽培でおがくず牛糞堆肥を15t/10a、5年間毎年施用した場合、窒素成分の合計で428kg/10a施用しているのに対し、作土層にはその約4割の164kg/10aしか残存しない(図1)。
  2. 培養実験によると、0t区に比べて15t区では、脱窒によって窒素ガスとして出ていく量が約17倍、温室効果ガスである亜酸化窒素として出ていく量が約3倍となる(図2)。
  3. 5年間堆肥連用後の土壌において、下層に含まれる無機態窒素量はアンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素ともに堆肥の施用量にかかわらず増加が見られない(図3)。その一方、下層に含まれる全窒素量は、堆肥の施用とともに増加がみられる(図4)。
  4. 堆肥に由来する下層の全窒素増加量は、3.75t区で9kg/10a、15t区で69kg/10aである(図5)。この窒素形態としては、無機態窒素の増加が見られないことから有機態窒素であると考えられ、水溶性で移動したもの及び微生物により有機化されたものであると思われる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 堆肥を大量施用しても下層土の無機態窒素量は同等であったが、これは栽培終了時点の調査で、経時変化および太陽熱消毒期間の無機態窒素量は把握できていない。そのため、堆肥大量施用が地下水の硝酸態窒素汚染につながるか否かはさらに実験が必要である。
  2. 堆肥の大量施用を行うとカリウムが大量に蓄積し、塩基バランスの悪化が見られる。その点からも、大量施用は勧められない。
[具体的データ]


[その他]
研究課題名有機質資材利用による土壌中の窒素の移動
予算区分国庫・土壌保全
研究期間1998〜2002年度
研究担当者藤田奈都、古川康徳、平浩一郎、堀川大輔、浅野 亨
発表論文等丸尾・古川・平ら(2001)奈良農技研報33:35-37

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