[成果情報名]

用水中有機態窒素の水稲への吸収利用

[要約] 水稲作における用水中の有機態窒素は、幼穂形成期より後に70〜90%が吸収され生育後半の肥効が高い。水稲への有機態窒素の吸収利用率は用水中有機態窒素濃度10ppmで20%、5ppmで15%、寄与率は10ppmで15%、5ppmで7%程度と推定される。
[キーワード] 水稲、用水、有機態窒素、吸収利用率、減肥
[担当] 兵庫農総セ・環境部
[連絡先] 電話 0790-47-2420
[区分] 近畿中国四国農業・生産環境(土壌)
[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]
 都市近郊では、用水の富栄養化が進み窒素負荷が増大している。ため池等止水域の窒素は植物プランクトンに取り込まれ有機態の割合が高く、その水稲肥培管理への影響は不明な点が多い。そこで、植物プランクトンと同程度にC/N比が低い有機液肥を給水したポット試験を行い、用水中有機態窒素の水稲生育への影響と吸収利用率を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
  1. 用水中に有機態窒素として、みんなゆうきペースト肥料(4-3-3、有機態窒素100%、水溶性)を希釈してポット栽培の水稲に栽培期間中継続して給水すると、基肥としてLPコートや硫安を施用していても、有機態窒素濃度10ppmでは、精玄米重が10%程度増加する(表1)。
  2. 収穫期までに水稲が吸収する用水中窒素量は10ppmでは68〜101mgとなり、それに対して幼穂形成期までに吸収する量は8〜28mgなので、幼穂形成期より後に吸収する用水中窒素量は、用水由来窒素全吸収量の約70〜90%に相当する。このため、もみの窒素含有率が高まるなど、生育後半への肥効が高くなる(表2)。
  3. 用水中有機態窒素の水稲への吸収利用率は、無窒素区では、収穫期の10ppmで21%、5ppmで16%となり、寄与率は10ppmで19%、5ppmで8%となる。LP区と硫安区での吸収利用率は、収穫期の10ppmで各23%、19%、5ppmで各23%、9%となり、寄与率は10ppmで、各15%、13%、5ppmで各8%、4%となる(表2)。
  4. 用水中有機態窒素濃度が5ppmで用水量を1200tと仮定すると、用水からの水田への窒素供給量が6kg/10aとなり、水稲の用水中窒素吸収量は0.9kg、肥料の利用率を50%とすると、減肥可能量は1.8kgとなる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 普通期栽培のヒノヒカリに適用できるが、流亡のないポット試験の結果であるため、 実際の利用率よりも高く評価している可能性がある。
  2. 有機態窒素としてみんなゆうきペーストを用いており、実際のため池用水に適用する には、さらに詳細な検討が必要である。
  3. 用水中の有機態窒素濃度は年次や季節により変動するため、減肥する前に平均的な窒 素濃度を把握しておく必要がある。
  4. 高濃度窒素を含む用水を長年使用している地域では、土壌の窒素含有率が高まってい る可能性があり、単年度の用水由来分以上に減肥の必要性が出てくる。

[具体的データ]

[その他]
研究課題名 近畿地域の水稲の環境負荷低減技術の体系化と負荷予測モデル開発
予算区分 地方領域設定型研究(高度化)
研究期間 2005〜2007年度
研究担当者 松山 稔、牛尾昭浩、桑名健夫、柴原藤善(滋賀農技セ)
発表論文等 松山ら(2007)近畿中国四国農研、11:29-33

目次へ戻る