[成果情報名]

晩生で大粒の酒造原料用水稲新品種「しずく媛」

[要約]

「しずく媛」は「松山三井」よりカルス培養を利用して変異個体を作出し、その後代から選抜した酒米品種である。本県の奨励品種である「松山三井」に比べて、成熟期は2日早い晩生種で、千粒重は重く、心白の発現率が高く、酒造適性に優れる。

[キーワード]

イネ、しずく媛、酒米、酒造適性、カルス培養

[担当]

愛媛農水研・農業研究部・作物育種室

[連絡先]

電話 089-993-2020

[区分]

近畿中国四国農業・作物生産

[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]

 愛媛県には多くの造り酒屋があり、特徴ある清酒を醸造している。酒米に利用されている本県育成の「松山三井」を原料とした純米酒はさっぱりとした味で評価が高い。しかし、近年「松山三井」の小粒化、充実不良等の品質低下が酒造組合より指摘され、酒米新品種育成の要望が大きい。そこで、「松山三井」の突然変異を利用して大粒の酒造適性に優れた新品種を育成する。

[成果の内容・特徴]

1.育成過程

1999年に「松山三井」よりカルス培養を利用して再分化個体を作出し、その後代から大粒で心白の発現が良好な系統を選抜した。試験醸造、現地実証栽培の後、成績が良好であったので「しずく媛」と命名し、2007年に品種登録を出願した。出願時の世代はM7である。

2.品種特性

 「松山三井」と比較した特性は以下のとおりである(表1)。

1)出穂期、成熟期とも2日早い“晩生”である。

2)穂数は同程度で、穂長はやや短く、草型は“中間型”である。

3)稈長は3cm長いが、耐倒伏性は同程度の“中”である。

4)葉いもちほ場抵抗性検定は“やや弱”でやや劣る。

5)収量性は91%と少なく、玄米の外観品質は「山田錦」に比べやや劣る。

6)心白の発現率は高いが、中心よりやや偏る。

7)玄米千粒重(粒厚1.8mm以上)は26.9gで1g程度重く、大粒種である。

8)脱粒性は“難”、穂発芽性は“やや難”である。

3.酒造適性

1)「松山三井」に比較して、大粒で、無効精米歩合が低く、蒸米吸水率は高く吸水性が良好である。

2)白米粗蛋白質含有率も低いことから酒造原料米としての特性は優れる(表2)。

3)愛媛県酒造組合による試験醸造酒の官能評価では、旨味があり、やわらかい酒質であるとの評価である。

[成果の活用面・留意点]

1.窒素施肥量が多いと、倒伏、葉いもちの発生を助長し、玄米蛋白質含有率の増加により酒造適性の低下につながるので、総窒素施肥量は10a当たり6kgを基準とする。

2.大粒の特性を維持するため、栽植密度は18.5株/uを基準とし、疎植栽培は行わない。篩目は1.9mm以上とする。

3.大粒のため胴割れ米が発生することがあるので、早期に落水しない。また、やや早めの収穫とする。

4.本品種は愛媛県内のみに普及する。

 

[具体的データ]

 

[その他]
研究課題名 : 酒造用松山三井育成試験
予算区分 : 県単
研究期間 : 2002〜2006年度  
研究担当者 : 兼頭明宏、鳥生誠二、秋山 勉、三好大介、浅海英記
発表論文等 : 品種登録出願中 第20841号

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