ミカン枝由来の物質「β-エレメン」によるゴマダラカミキリの逃避行動

要約

果樹や街路樹の害虫であるゴマダラカミキリにおいて、ヤナギ枝をエサとしたオスは、ミカン枝を食べたメスを避ける。この行動は摂食によりメス体表に吸着されるミカン枝由来のβ-エレメンにより引き起こされる。

  • キーワード:ゴマダラカミキリ、エサ植物種、逃避行動、交尾行動、β-エレメン
  • 担当:中央農業研究センター・虫・鳥獣害研究領域・情報化学物質グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ゴマダラカミキリは、幼虫期に多くの果樹やヤナギ等の街路樹の枝・幹を食害して深刻な被害をもたらす。我が国の農業における重要害虫であるばかりでなく、世界各国でも侵略的外来種として警戒されている。樹の内部を加害する幼虫期の防除は難しいため、交尾行動の妨害など、特に成虫期をねらった行動制御による効果的な防除法の開発を目指す。

成果の内容・特徴

  • ゴマダラカミキリのエサとなる植物種の選好性を解析すると、メスはミカン枝を好み、オスは直前までエサとしていた植物を好むという違いがある。
  • 同じエサ植物を食べたオスとメスの間での場合、メスに遭遇したオスは、メスに拒否され、暴れられたとしても、メスにしがみつき続け、交尾に至る。一方、異なるエサを食べたオスとメスの間での交尾行動を観察すると、ヤナギ枝を食べたオスは、ミカン枝を食べたメスに対して、触角がメスに触れるか触れないかといったタイミングで、一目散に逃げ出す行動(逃避行動)が認められる。
  • この行動の要因を明らかにするため、メスにみたてた黒いガラス玉に対するオスの反応を観察した。ヤナギ枝を食べていたオスは、ヤナギ枝を食べていたメスの体表成分を塗ったガラス玉に対しては70%が近く交尾行動を示す(図1および図2)。一方で、ミカン枝を食べていたメスの体表成分を塗ったガラス玉に対して、ヤナギ枝を食べていたオスが交尾行動を示したのは20%で、残りの80%のオスは逃避行動を示す。つまり、ミカン枝を食べたメスの体表にオスが逃げ出す何らかの因子がある。
  • カミキリムシの体表には、メス自身が生来的に持つ物質に加え外部から付着する物質などが含まれる。エサの異なるメスの体表に含まれる成分を分析したところ、ミカン枝をエサとしていたメスの体表にのみ「β-エレメン」という物質が含まれていた(図3)。β-エレメンを塗布したガラス玉をヤナギ枝食オスに提示すると、オスは忌避行動を示した(図4)。ゴマダラカミキリがミカン枝を食べて表皮が傷ついたミカン枝から、β-エレメンが放出されるため、メス体表にこの物質が付着する。

成果の活用面・留意点

  • 本成果により、ゴマダラカミキリのオスとメスのエサ・匂いに対する好みの違いを利用した防除技術を開発できる可能性が示された。例えば、ミカン以外の果樹園にミカン株を置けば、メスはミカンに移動するがオスは元々エサとしていた植物上に留まるので、これらオスとメスが同じ樹上で出会う頻度が減少すると予想される。
  • ミカン枝をエサとするオスにはミカン食メスを忌避しないため、ミカン園は本成果を活用した防除技術開発の対象外である。

具体的データ

図1 ヤナギ枝をエサとしていたオスのミカン食メス抽出物を塗布した黒いガラス玉に対する反応 交尾試行した割合を白、逃避行動を示した割合を黒で示す.;図2 ヤナギ枝を食べていたメスの体表成分を塗った黒いガラス玉に交尾行動を示すヤナギ枝食オス.;図3 ミカン枝食メスの体表上に特異的に存在した物質、β-エレメンの構造.;図4 β-エレメンを添加したヤナギ枝食メス抽出物を塗布したガラス玉に対するヤナギ枝食オスの忌避反応.

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016年度
  • 研究担当者:安居拓恵、辻井直
  • 発表論文等:Yasui H. and Fujiwara-Tsujii N. (2016) Sci. Rep. doi:10.1038/srep29526