養豚農家の密閉縦型堆肥化装置から発生するアンモニアガスの肥料利用

要約

養豚農家の密閉縦型堆肥化装置での処理において発生するアンモニアを、粉じんの影響を受けることなくリン酸溶液で95%程度回収できる。回収液は窒素が6%含まれるとともに、肥料利用を阻害する成分は含まれず、肥料登録可能な性状で、混合堆肥複合肥料の原料としても利用が可能である。

  • キーワード:豚、密閉縦型堆肥化装置、アンモニア回収、液肥、混合堆肥複合肥料
  • 担当:中央農業研究センター・飼養管理技術研究領域・作業技術グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8673
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

家畜ふん尿の堆肥化処理では、有機物の分解にともなってアンモニアガス(NH3)が発生する。特に、養豚など中小家畜農家に普及している密閉縦型堆肥化装置では、発生したアンモニアが一つの排気配管に集約され1000ppm以上の高濃度になる。また、密閉縦型堆肥化装置では他の堆肥化方式に比べて生産される堆肥の水分が低く、通気量が大きいため堆肥由来の粉じんが突発的に飛散して排気に混入し、配管等を閉塞する可能性がある。本成果は、リン酸溶液をポンプで循環させながら排気に散布することでアンモニアと結合させ、アンモニアを回収する装置において、粉じんの混入を防ぎつつ密閉縦型堆肥化装置排気中のアンモニアの回収を目指したものである。また、養豚農家はほ場を所有していないことが多いことから、アンモニア回収後のリン酸アンモニウム溶液(回収液)が肥料として登録可能であることを示すことを目的とし、成分および有害性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 密閉縦型堆肥化装置排気を一度下方に送った後、再度上方に送りなおしてアンモニア回収装置に導入することにより、動力を使うことなく排気中に含まれる粉じんを配管中で発生した結露水とともに配管外に排出することが可能である。また、アンモニア回収装置に噴霧ノズルならびにステンレスメッシュを用いた接触ろ材を設置することにより、粉じんが混入した場合の閉塞を防ぎつつアンモニア回収能力が向上する(図1)。
  • 母豚200頭規模一貫経営の養豚農家において、密閉縦型堆肥化装置で豚ぷんと脱水汚泥を滞留時間14日程度で堆肥化した場合、排気中のNH3濃度は1000~6000ppm程度である。この排気をアンモニア回収装置に導入することで95%程度のNH3が回収され、排気中のNH3濃度は、一般的に密閉縦型堆肥化装置に併設している生物脱臭装置で十分除去できる水準まで低下する(図2)。
  • 有効容積600Lのアンモニア回収装置に、1回あたりリン酸濃度63%の溶液を90L(約153kg)、水を200~250kg充てんしアンモニアを回収すると、2.5~3日程度でアンモニアを窒素換算で約30kg回収することができる。回収液の肥料成分は窒素濃度が約6%,リン酸濃度が19%である。また、回収液は粉じんの混入がほとんどなく透明で、約3°Cの低温条件および-20°Cの氷結条件で1ヶ月保管しても、肥料成分は結晶化しない(表1)。さらに、回収液の成分は、肥料取締法上の液状複合肥料が含有すべき主成分濃度(窒素・リン酸・カリのうちいずれか二成分以上の合計で8.0%以上)を満たすとともに、肥料取締法で指定されている有害成分は検出されず、幼植物試験をおこなっても植物へ特段の害もみられない。
  • 母豚200頭規模一貫経営の養豚農家において、年間約20tのリン酸溶液を使用し、4.5tの窒素を含む回収液が75t生産できる。本回収工程においては、原料のリン酸液購入費として年間180~460万円程度と循環ポンプの電気料金9万円がかかり、尿素換算で150万円/年程度の窒素が得られる。回収工程でリン酸成分は逸失しないため、リン酸成分に窒素成分の価値を付加できる。
  • 回収液は密閉縦型堆肥化装置で生産された堆肥とともに、混合堆肥複合肥料の原料としても利用でき、その製造方法は従来原料と同様である(図3)。製造した混合堆肥複合肥料は肥料登録が可能である(試作肥料登録番号103867)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:本成果は養豚農家、農業者団体、肥料製造業者向けの成果である。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:密閉縦型堆肥化装置を導入している畜産農家(日本全国で6000基程度導入)で利用可能である。
  • その他:アンモニア回収装置は、酪農向けに開発されたものであり(阿部ら、2006年度畜産草地技術・普及成果情報)、有限会社岡本製作所より市販化されている(参考価格300万円程度)。混合堆肥複合肥料の製造には肥料メーカーとの連携が必要である。

具体的データ

図1 密閉縦型堆肥化装置に対応したアンモニア回収装置のレイアウト,図2 排気中NH3の回収前後濃度,図3 回収液を原料とした混合堆肥複合肥料

その他

  • 予算区分:競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:
    小島陽一郎、中久保亮、阿部佳之、石田三佳、松岡英紀(朝日工業)、見城貴志(朝日工業)、浅野智孝(朝日工業)
  • 発表論文等:
    • 小島ら(2019)農業施設、50:64-72
    • 松岡(2018)平成30年度家畜ふん尿処理利用研究会資料