トウモロコシ花粉飛散ステージに対応した分光反射率に基づく植生指数等の変化

要約

トウモロコシ雄穂の分光反射率から計算される植生指数等と花粉飛散数の関係を調査した。花粉飛散ステージの進行に伴いOSAVIとred edgeの最大傾きは特徴的に減少し、トウモロコシの花粉飛散時期は雄穂の光学的な植生指数等の変化と対応する。

  • キーワード:畑作圃場管理、精密農業、高分解能光学情報、近接リモセン
  • 担当:北海道研究センター・生産環境研究領域・寒地気候変動グループ
  • 代表連絡先:電話 0155-62-4279
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、人工衛星、航空機、ドローン等により圃場内の高分解能多波長光学情報が容易に取得できるようになり、それらから生育ステージ等の生育情報を得る手法が求められている。取得された情報の活用に必要な作物部位の生育ステージの推移に伴う光学的特性の変化についての知見は少ない。トウモロコシは雌雄異花であり、植生群落上で雄穂(雄花)が開花して花粉飛散する際には、雄穂は形態的にも色彩的にも大きく変化するが、花粉飛散ステージの進行に対応した光学特性の測定知見はほとんどない。雄穂の分光反射率より計算される各種植生指数等の推移と花粉飛散数実測値の推移の比較から、植生指数等と花粉飛散ステージの関係を検証し、圃場で取得される高分解能光学情報利用の基礎データとする。

成果の内容・特徴

  • 測定対象である雄穂の外観変化を図1に示す。雄穂は出穂後開花して花粉飛散を開始し(本成績では8月1日~5日)、花粉飛散数ピーク(8月6日)を迎え、終息(8月7日~14日)に向かう(花粉飛散数の推移は図2および図3:右軸)。
  • 植生指数の1種であり、(1)式から計算されるOSAVI(Optimized Soil-Adjusted Vegetation Index,Haboudane et al., 2002)の8月1日からの日々の減少量を見ると、開花期間中は減少トレンドであるが、花粉飛散ピークまでは大きく減少し以後終息までの減少は小さい(図2:左軸)。ここで、
    (1)式
    但しR670は670nm(赤色に相当)での反射率、R800は800nm(近赤外線に相当)での反射率である。
  • 波長毎の反射率の傾きが最大となる(以後、最大傾きとする)波長であり、(2)式で計算されるRed edge (Horler et al. 1983)の最大傾きは、花粉飛散が進むにつれて減少するが、その減少程度は徐々に小さくなる(図3:左軸)。ここで、
    (2)式
    但しjおよびj+1は波長、Δλはjj+1との間の波長差、Rλ(j)jにおける反射率、Dλ(i)は反射率の最大傾きである。
  • 活性の高い植生の分光反射率は一般に赤が低く近赤外光が高いため、OSAVIが大きく、Red edgeの最大傾きが大きい。トウモロコシ雄穂は、開花・花粉放出に伴いOSAVIおよび最大傾きが減少する。特に花粉飛散ピークまでの減少量が大きかったため、同期間に光学的な植生指数等が大きく減少する特性を活かすことによりセンシング技術として活用できる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、トウモロコシ雄穂の光学特性変動の基礎データである。圃場群落における更なる検証によって、高精度光学情報としての活用が期待される。

具体的データ

図1 花粉飛散前後の雄穂の様子?図2 OSAVI減少量および花粉飛散数の推移?図3 最大反射率傾きおよび花粉飛散数の推移

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2006~2015年度
  • 研究担当者:井上聡、芝池博幸、米村正一郎、杜明遠、盧珊(中国東北師範大)、川島茂人(京都大農)
  • 発表論文等:Shan Lu et al. (2015) J. Agric. Meteorol. 71:153-160