北海道における水稲乾田直播栽培の前年整地体系と高低差マップ

要約

水稲乾田直播栽培の前年整地体系は、小麦収穫後・積雪までに整地(耕起・均平)し、春作業を省力化する。泥炭土における輪作のモデルケースでは、慣行体系に比べて春の整地作業時間を、圃場内の高低を示すマップ無しで3割弱、有りで5割弱削減できる。

  • キーワード:水稲乾田直播栽培、均平作業、水田輪作、田畑輪換、高低差マップ
  • 担当:北海道農業研究センター・水田作研究領域・経営評価グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

南空知地域の泥炭地帯では、水稲乾田直播栽培(以下、水稲乾直)・小麦・大豆を組み合わせた水田輪作(田畑輪換)が行われている。しかし、泥炭土であるため均平が保ちにくく、特に小麦・大豆作から復田する際の均平作業に長時間を要し、水稲育苗作業などと競合して労働ピークとなる。これに対して、小麦収穫後・積雪までに整地(耕起・均平)し、翌春水稲乾直を行う前年整地体系が提案され、その収量と生育は慣行体系と同等であることが明らかにされている。そこで、前年整地体系と、圃場内の高低を示したマップ(高低差マップ)の作業技術的・経営的な効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水稲乾直の前年整地体系は、小麦収穫後・積雪までに整地(チゼルプラウ耕・均平)し、春作業を省力化する(図1上段)。土壌条件や積雪条件によっては、春に再度手直し程度の耕起・均平が必要となる。その場合でも、融雪後の均平度は前年整地しない圃場よりも良好であり(図2上段)、均平作業時間は均平度が良好なほど短い(図3)ため、前年整地体系は春の作業時間を短縮できる。また、融雪および排水性に悪影響はなく、前年整地しない圃場と同様の日程で作業できる(図2下段)。
  • 高低差マップがあれば、事前に圃場内の高低を詳細かつ正確に把握できるため、均平作業時間の短縮(図3)と作業失敗(高低が残る)の回避ができる。高低差マップは、RTK-GNSS受信機を装着した車両を用いて作成できる(図1下段)。
  • 泥炭土における輪作のモデルケース(春に再度手直し程度の耕起・均平を実施)では、前年整地体系は慣行体系に比べて、春の整地作業時間を高低差マップ無しで3割弱、有りで5割弱削減できる(表1)。均平機が春季10日間で作業できる面積(負担面積)は、慣行体系では13.6haなのに対して、前年整地体系では、高低差マップ無しで20.3ha(慣行比150%)、有りで30.0ha(同221%)となり、大幅に増加する。ただし、前年にも作業が加わるため、1年間の整地作業時間は高低差マップ無しで4割弱、有りで1割強増加する。これに伴い生産費は、高低差マップ無しの場合で実践経営において光熱動力費と労働費が821円/10a(全算入生産費の0.7%)増加するのみであった。

普及のための参考情報

  • 普及対象:北海道において水稲乾直と小麦を含む水田輪作を行う生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道南空知地域中心に400ha
  • その他:
    • 公的機関や民間企業が高低差マップの作成サービスを提供している例がある。また、GNSSレベラーに作成機能を実装する予定である。
    • 前年整地体系は特に水稲乾直を大規模に行う経営や、均平が保ちにくい泥炭土の地区で有効である。

具体的データ

図1 前年整地体系と高低差マップ,図2 泥炭土での融雪後の均平度と作業日,図3 均平改善度と圃場内作業時間の関係,表1 泥炭土のモデルケースでの整地作業時間

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(25補正「革新プロ」、29補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:吉田晋一、長南友也、村上則幸
  • 発表論文等:長南ら(2019)農研機構研究報告 北農研、207:51-78