緊急防除の効率化に貢献するジャガイモシストセンチュウ類2種の同時診断技術

要約

ジャガイモシロシストセンチュウ、ジャガイモシストセンチュウ、それ以外のシストセンチュウ種であることをPCR法により同時に診断するための技術である。偽陽性・偽陰性を防止して信頼性を確保するとともに、従来法の半分以下の工程数や試薬コストで効率的な診断が可能となる。

  • キーワード:線虫、ばれいしょ、マルチプレックスPCR、UNG
  • 担当:北海道農業研究センター・生産環境研究領域・線虫害グループ
  • 代表連絡先:電話 011-857-9212
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ジャガイモ生産に甚大な被害を与えるジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida:以下 Gp)が2015年に国内で初めて確認され、2016年より国による緊急防除が実施されている。国内には以前から近縁種で形態的に酷似するジャガイモシストセンチュウ(G. rostochiensis:以下 Gr)が発生しているが、Gpの発生や拡がりを調査・把握するには両種を効率的に識別する必要がある。しかし、従来のPCR-RFLP法による診断では時間と労力を要するデメリットがある。諸外国では、より迅速・簡便なマルチプレックスPCR法を用いた診断技術が開発・利用されているが、既往の方法では供試サンプルが非標的種だった場合にはPCRバンドを生じないためPCR増幅などの実験上の失敗等による偽陰性と区別がつかないことや、過去に行った同条件のPCR反応による増幅産物が混入すること(キャリーオーバー)により偽陽性が生じて誤判定に繋がる懸念がある。
そこで、本研究ではGpおよびGrに対する種特異的プライマーセットのほかに他種のシストセンチュウでもDNA断片を増幅する共通プライマーを組み込んだマルチプレックスPCR法を開発する。また、キャリーオーバーを防止するとともに、供試する鋳型DNAの調整を簡素化して、ジャガイモシストセンチュウ類に対する診断技術の利便性向上と偽陰性・偽陽性の最小化を図る。これにより、緊急防除におけるジャガイモシストセンチュウ類の発生確認や防除効果確認をより効率的に実施することができ、封じ込めおよび防除対策の円滑な実施に寄与できる。

成果の内容・特徴

  • 本法では幼虫1~10頭程度またはシスト1~10個程度から簡便にDNA粗抽出液を調製できる。幼虫の拾い上げなどの熟練を要する工程を省略でき、DNA精製も要さない(図1)。
  • GpおよびGrにそれぞれ特異的なプライマーセットに加えて、共通プライマーセットを組み合わせて用いるマルチプレックスPCR増幅により(図2)、Gp(287bp)、Gr(150bp)、それ以外のシストセンチュウ種(約450bp)であることを同時に診断できる(図3)。本法により、作業工程、時間および試薬代を従来法(PCR-RFLP法)の半分以下にできる(表1)。
  • PCR産物にウラシルを取り込ませ、次のPCR増幅の前にウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)処理を行いウラシルを含むDNA断片のみを分解することによってキャリーオーバーを防止するPCR反応系を採用しており、偽陽性による誤診断を回避できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:植物防疫所、病害虫防除所、民間検査機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:横浜植物防疫所管内2か所、十勝農協連。
  • その他:本手法は植物防疫所が実施するGp発生確認のための土壌検診(カップ検診法)において、確認されたシストセンチュウの種判別に用いられる予定である。

具体的データ

図1 シスト(左)および幼虫(右)からのDNA粗抽出液の調製,図2 プライマーおよびPCR反応条件,図3  PCR増幅結果,表1 本法と従来法の作業工程、時間および試薬代の比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(北海道馬鈴しょ生産安定基金協会生産流通振興事業)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:酒井啓充、串田篤彦、奈良部孝
  • 発表論文等:Sakai H. et al. (2019) Nematol. Res. 49:19-27