トマト果実およびトマト加工品中リコピンの迅速定量法

要約

トマト果実破砕物およびトマト加工品に可視光を照射し透過光のスペクトルを計測することにより、機能性成分であるリコピンを迅速に定量する手法である。本法は試料の希釈が不要でかつ汎用性が高く、リコピン含有量を高精度に推定でき、トマト果実・加工品の高付加価値化に役立つ。

  • キーワード:トマト、トマト加工品、リコピン(リコペン)、可視分光法、透過法
  • 担当:食品研究部門・食品分析研究領域・非破壊計測ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8012
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

トマトに含まれるリコピン(赤色色素)は機能性成分として注目されており、2015年4月から開始された機能性表示食品制度において、高濃度のリコピンを含むトマトジュースやトマト生果が機能性表示食品として届出されている。機能性表示食品制度では、届出者が食品の規格(一日摂取目安量当たりの成分含量)を設定するとともに、届出後も当該食品に含まれる成分量を確認(モニタリング)する必要がある。特に成分量のモニタリングにおいて迅速定量法が求められているが、従来のトマト果実およびトマト加工品中のリコピン迅速定量法は、試料の希釈をしなければならず、また、果実と加工品とで用いる波長が異なるため、より迅速かつ汎用性の高いリコピン定量法を開発する。

成果の内容・特徴

  • リコピンはカロテノイド系の色素であり、可視光域で選択性が高くかつ感度よく計測可能であることから、可視光をトマト果実破砕物およびトマト加工品に照射し透過光のスペクトルを計測する。
  • 強い光源を用いることにより、トマト果実は破砕後、トマト加工品(ジュース、ケチャップ、ピューレ)は破砕せずにそのまま、希釈せずに計測することができる。希釈不要なため希釈誤差は発生せず、計測時の処理時間短縮および労力軽減につながる。
  • トマト果実破砕物およびトマト加工品の可視光吸収スペクトルは、リコピンモノマーよりも長波長側を含めた450nmから580nm付近に主な吸収が観察される(図1)。すなわち、これらの可視光吸収スペクトルにはリコピンJ会合体による吸収を含む。
  • 一定条件下で計測した透過光のスペクトルデータを基に、トマト果実破砕物・加工品の双方に適用可能な単一の検量線を2つの説明変数(594nmおよび740nmの吸光度)から作成することができる(図2)。本迅速定量法による未知試料中のリコピン濃度の推定精度は次式で求められ、本法は高い推定精度(RMSE〔Root mean squared error〕=1.05mg/100g)を有している(図3)。

    図1 トマト果実破砕物(上)およびトマト加工品(下)の可視光吸収スペクトル,図2 実際のリコピン濃度と迅速測定値の関係(迅速定量法検量線作成用,図3 実際のリコピン濃度と迅速測定値の関係(迅速定量法評価用)

    Y:迅速定量法によるリコピン濃度、X:実際のリコピン濃度、n:迅速定量法評価用試料の試料数

普及のための参考情報

  • 普及対象:トマト生産者、トマト加工事業者、普及指導機関等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
  • その他:本法は、一般財団法人雑賀技術研究所から販売されているキノメーターに活用されている。

具体的データ

図1 トマト果実破砕物(上)およびトマト加工品(下)の可視光吸収スペクトル,図2 実際のリコピン濃度と迅速測定値の関係,図3 実際のリコピン濃度と迅速測定値の関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:伊藤秀和、阪中達幸((一財)雑賀技術研究所)
  • 発表論文等:
    • 伊藤、阪中(2019)分析化学、68:513-517
    • 伊藤(2019)日本赤外線学会誌、28:13-22