水田畦畔・斜面草地における生物多様性に配慮した刈払い管理

要約

水田畦畔では年2~3回、隣接する刈払いを伴う斜面草地では年2回の刈払い管理が植物の種多様性を高める。それ以下でも以上でも種多様性は低下する。この結果は日本型直接支払の根拠や二次的自然の適正管理に活用できる。

  • キーワード:生物多様性保全、畦畔、斜面草地、刈払い管理、二次的自然
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生態系サービス評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

現在、農業など人間の営みにより育まれる二次的自然の生物多様性に注目が集まっている。その中でも戦後、最も減少している自然は草原である。1890年代には国土の30%以上に存在していた草原が現在では1%に満たない。そのような中、小面積ながら水田周辺に成立する畦畔や隣接して刈払いを行う斜面草地(以下、斜面草地)は全国の水田生態系にかならず存在する貴重な二次的自然であるといえる。本研究は生物多様性に配慮しながら、害虫管理、作業効率の視点から畦畔と斜面草地の適切な管理手法の開発を目指す。畦畔と斜面草地は全国的に見られるとともに、その管理形態は非常に多様である。とくに刈払い頻度や刈払い時期は農家ごとに違いがある。そこで、刈払い回数と植生の関係を解析することで、適切な刈払い管理の指針を提案する。

成果の内容・特徴

  • 本州、四国、九州の12地域の畦畔(図1)ならびに斜面草地(図2)において植生調査と刈払い管理実態の調査(調査地点数612地点)を実施し刈払い管理と植物の在来種数との関係を解析した結果である。
  • 畦畔で年2~3回、斜面草地で年2回の刈払い頻度であれば、在来種数の多い植生が維持されるが、それ以上の頻度で刈払いを行うと在来種数は低下する。どちらも年1回刈りでも在来種数が低下する(図3)。また、他の在来植物を被圧し、斑点米カメムシの寄主植物となるイネ科植物の相対被度も畦畔で年2~3回、斜面草地で年2回の刈払い頻度が低く抑えられる(図3)。
  • 茨城県域で実施した詳細な植生調査と管理実態の調査から2.の種数減少は、畦畔草地ではカントウヨメナ、ノコンギク、ノアザミなどの半地中植物とシロネ、コバギボウシ、ミソハギなどの水生・湿性植物が、斜面草地ではアキノキリンソウ、オオアブラススキ、ツリガネニンジンなどの半地中植物とヤマユリ、センニンソウ、コウヤワラビなどの地中植物である。開花結実前の刈払い、高頻度刈払いによる地下貯蔵栄養分の収奪、土壌水分条件が乾性に傾くことが原因であると考えられる。
  • 畦畔では年2~3回、斜面草地では年2回までの刈払いが生物多様性保全に有効である。また、労働コストを下げることにも繋がる。在来植物の多様性保全と斑点米カメムシ対策の両立には、水稲出穂前までに2回刈払いを行った場合は、秋に開花結実する植物を維持するため、9月中旬までは刈払いを実施しないことが望ましい。

普及のための参考情報

  • 普及対象:日本型直接支払(環境保全型農業直接支払交付金、多面的機能支払制度)の対象農家及び団体、農業生態系の保全活動を実施している主体。
  • 普及予定地域・普及予定面積:北海道、南西諸島を除く本州・四国・九州に適用可能
  • その他:農業公園の管理者、二次的自然を保全対象とする環境NPOにとっても有益な知見となる。鳥獣害対策や作業性向上等の観点から高頻度の畦畔刈り払いを実施する場合は、必要な場所のみを高頻度に止めることが生物多様性保全の観点から望ましい。

具体的データ

図1 畦畔;図2 斜面草地;図3 畦畔(a)と斜面草地(b)における刈払い頻度と植物の在来種数との関係


その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:楠本良延
  • 発表論文等:楠本ら(2017)農村計画学会誌、35(4):469-473