転換畑土壌の短期間の冠水によるN2O大量発生時の脱窒菌群の特徴

要約

転換畑土壌が冠水すると短時間に大量のN2Oを発生する。その原因は冠水により表層土壌の脱窒反応が活性化するためであり、土壌表層の脱窒菌の群集構造が重要である。

  • キーワード:一酸化二窒素、脱窒菌、脱窒反応、冠水、メタゲノム解析
  • 担当:農業環境変動研究センター・物質循環研究領域・物質変換解析ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農耕地土壌から発生する温室効果ガスである一酸化二窒素(N2O)の主要な発生経路は、脱窒と硝化の2つの微生物反応である。脱窒では嫌気条件下で硝酸や亜硝酸が還元される過程でN2Oが発生する。このため脱窒反応によるN2O発生は酸素濃度の影響を強く受け、特に降雨による土壌水分の上昇により発生量が増加する。特にこの傾向は転換畑土壌において顕著と推察される。しかし土壌の水分量は短時間で変化するため脱窒によるN2O発生パターンについては不明な点が多い。そこで、N2O発生防止のための土壌水分管理技術の基礎的知見を得ることを目的とし、これまでに開発した温室効果ガスサンプリング装置による連続N2O測定を実施し、豪雨時のN2O発生の実態を解明するとともに、モデル実験系を用いて次世代シーケンサーによる転換畑土壌の細菌脱窒酵素遺伝子の多様性を解析し、豪雨によるN2O発生と脱窒菌群集の動態の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 転換畑(ニンジン栽培、4つの施肥条件)から発生するN2Oを連続的に測定したところ、豪雨(82.5mm/日)による圃場の冠水時に極めて大量のN2Oが発生(図1矢印)。この時のN2O発生量は畑土壌の一年間のN2O発生量に匹敵する。
  • 転換畑土壌から採取した土壌コアを用いたモデル実験系により、冠水によるN2O大量発生を再現した。発生したN2Oの安定同位体解析の結果から、発生したN2Oは脱窒細菌由来であることがわかる。
  • 土壌コアから深さ別に土壌を採取してmRNAを調製し、細菌の脱窒遺伝子群を定量PCRにより測定した結果、冠水により土壌表層(0-1cm)における脱窒遺伝子の発現量が著しく増加することから、N2Oは土壌表層で生成しているといえる(図2)。
  • 同様の土壌から調製したDNAに含まれる脱窒遺伝子群を定量PCRにより測定すると、冠水後のN2O大量発生時の遺伝子数の有意な変化は認められない(図3)。
  • 脱窒遺伝子の多様性と土壌の環境要因に関する統計的な解析結果から、土壌の深さ、全窒素、全炭素が脱窒菌遺伝子の多様性に影響を与えること、特に土壌の深さが影響が大きいといえる。また冠水前後の深さ別の脱窒菌遺伝子の構造に変化はないが、その構造は土壌表層(0-1cm)とその下層で明確に異なることから(図4)、冠水前に存在している土壌の脱窒菌群集の構造、すなわち脱窒菌のメンバーの構成が、冠水によるN2O発生に大きな影響を与えていることがわかる。

成果の活用面・留意点

一時的冠水時のN2O発生の連続モニタリングおよび脱窒遺伝子発現量解析と脱窒菌群集構造の解析結果から、排水性を高めるなどの土壌水分管理が転換畑圃場のN2O発生防止技術として重要であることが示唆される。

具体的データ

図1 異なる施肥条件下でのニンジン圃場におけるN2Oフラックス;図2 土壌コアの冠水前後の深さ別亜硝酸還元酵素遺伝子nirS発現量の変化;図3 土壌コアの冠水前後の深さ別亜硝酸還元酵素遺伝子nirS存在量の変化;図4 深さ別の脱窒菌群集構造の関係

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(JST最先端次世代研究開発プログラム、生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:王勇、内田義崇(北大農)、下村有美(協同乳業)、秋山博子、早津雅仁、須藤重人、森本晶、八木一行、中島泰弘
  • 発表論文等:
  • 1)Wang Y. et al. (2017) Sci. Rep. 7:803 doi:10.1038/s41598-017-00953-8
    2)Uchida Y. et al. (2014) FEMS Microbiol. Ecol. 88(2):407-423
    3)Akiyama H. et al. (2013) Biol. Fertil. Soils 49(2):213-223