日本国内の牛からは4つの血清型の流行性出血病ウイルスが分離されている

要約

日本国内の牛では、イバラキ病の原因となり、流行性出血病ウイルス(EHDV)血清型2に分類されるイバラキウイルスをはじめ、EHDV血清型1、7及び新たな血清型のウイルスが分離される。

  • キーワード:流行性出血病ウイルス、血清型、イバラキ病、アルボウイルス、牛
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・暖地疾病防除ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7937
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

流行性出血病ウイルス(Epizootic hemorrhagic disease virus:EHDV)は、吸血昆虫であるヌカカが媒介する節足動物媒介性(アルボ)ウイルスであり、牛やその他の反芻動物に感染する。EHDVには血清型1、2、4~9が知られており、国内で1959年に牛から分離されたイバラキウイルスはEHDV血清型2に分類される。イバラキウイルスは、家畜伝染病予防法が定める届出伝染病であるイバラキ病の原因ウイルスであり、牛に発熱、食欲低下、嚥下障害などの症状を引き起こし、発症牛は死に至ることもある。そのため、国内では本病の発症予防のため、1960年代から牛用のワクチンが広く使われてきた。ワクチンが普及して以降、国内では本病の発生が大きく減少したものの、1985年以降に分離されたEHDVには、イバラキウイルスとは特徴の異なるウイルス株が含まれることが示唆されていた。そこで本研究では、1985~2013年に分離されたEHDVについて、それらの血清型を遺伝学的・血清学的手法により分類する。

成果の内容・特徴

  • 日本国内で1985~2013年に牛から分離された計11株のEHDVについて、血清型を規定するゲノム分節2の塩基配列に基づいて分子系統樹解析を行うと、11株中10株は血清型1の1995年オーストラリア分離株、血清型2の1959年茨城分離株、血清型7の1981年オーストラリア分離株のいずれかに近接して分類される(図1、表1)。
  • 1998年沖縄分離株(ON-4/B/98)は、前述の分子系統樹解析によると、EHDV血清型2および7に比較的近縁である(図1)。しかし、それらの血清型の株に対するアミノ酸レベルの相同性は高くても68.32%であり、同一血清型の株間の相同性より低いことから(同一血清型間では最低でも73.21%)、新規の血清型であることが示唆される。
  • ON-4/B/98は、EHDV血清型2および7のウサギ抗血清を使用して血清学的試験である中和試験を実施すると、血清型2あるいは7の抗血清と反応しない。よって、本ウイルス株は新たな血清型(血清型10(暫定名称))に分類される(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 1997年に九州地方で約1,000頭の牛がEHDV感染によりイバラキ病と同じ嚥下障害に加えて流産や死産を起こしたが、その当時の鹿児島分離株(KSB-14/E/97)は、EHDV血清型7に分類される(表1)。
  • 国内で分離されたEHDV血清型1及びON-4/B/98の株はすべて無症状の牛から分離されており、これらの株の病原性は不明である(表1)。しかし、外国では血清型2及び7以外のEHDVによる牛の発症例が近年相次いで報告されており、国内においてもこれらの血清型のEHDVによる牛の疾病発生に注意すべきである。また、今後の状況次第では、各血清型に対応したワクチンを開発する必要がある。

具体的データ

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:白藤浩明、加藤友子、山川睦、田中徹(佐賀県)、峯森雄高(愛媛県)、梁瀬徹
  • 発表論文等:Shirafuji H. et al. (2017) Infect. Genet. Evol. 53:38-46