カメムシ類制御剤標的としてのミトコンドリア膜タンパク質遺伝子の機能

要約

カメムシ類のミトコンドリア膜輸送体タンパク質をコードするANTI1遺伝子は成育に必須であり、新規制虫剤開発の標的として利用できる。

  • キーワード:昆虫、ミトコンドリア、制虫剤
  • 担当:生物機能利用研究部門・昆虫制御研究領域・昆虫機能制御ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6071
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

殺虫剤抵抗性を獲得した難防除害虫の防除のため、新規制虫剤の標的分子の発掘が常に求められている。その候補として、ミトコンドリア膜ADP/ATP輸送体タンパク質(ANTI)遺伝子を対象とし、カメムシ由来の同遺伝子の機能を解明することにより新規制虫剤の標的分子としての可能性を評価する。

成果の内容・特徴

  • RNA-seq解析等により、カメムシ類等の重要害虫を含む20昆虫種のANTIをコードする遺伝子の配列を解析したところ、ほとんどの昆虫種にはANTI1とANTI2の2遺伝子がある。
  • チャバネアオカメムシ(Plautia stali)の幼虫齢期と成虫各組織におけるこれら遺伝子(PsANTI1とPsANTI2)の発現変動を調べたところ、PsANTI1は常に発現しているが、PsANTI2は1齢幼虫と成虫の触角では殆ど発現していない(図1)。
  • PsANTI1およびPsANTI2の二重鎖RNAを作成し、チャバネアオカメムシ3齢幼虫に注射してRNA干渉法による遺伝子発現抑制を行ったところ、PsANTI1の発現を抑制した場合にのみ高い致死効果がある(表1)。
  • PsANTI1発現抑制による致死の機構は、幼虫脱皮の阻害である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • PsANTI1の遺伝子機能を阻害することで致死効果があることから、ANTIを標的とすることで、殺虫剤抵抗性が発達した害虫にも有効な制虫剤の開発が可能となる。
  • これまでにコクヌストモドキとエンドウヒゲナガアブラムシのANTI遺伝子を導入した酵母によるスクリーニング系を開発しているため、カメムシ類のANTIについても同様の組換え酵母を作出し、カメムシ類に有効な制虫剤の候補となるシーズ化合物を効率的に探索できる。

具体的データ

図1 チャバネアオカメムシANTI遺伝子の発現変動(A)と成虫での組織局在(B)?表1 チャバネアオカメムシでANTI遺伝子の発現を抑制した場合の成育に与える影響?図2 PsAntI1遺伝子の発現を抑制した場合に幼虫脱皮に失敗したチャバネアオカメムシの例

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:小瀧豊美、塩月孝博、上樂明也、皆葉正臣、管原亮平、山本武範(徳島大学)、篠原康雄(徳島大学)、三芳秀人(京都大学)
  • 発表論文等:Sugahara R. et al. (2016) J. Pestic. Sci. 41:44-48