世界初、オオムギ穂発芽耐性遺伝子SD2の特定

要約

オオムギの5H染色体長椀末端に座乗する穂発芽耐性に関与する量的形質遺伝子座 (QTL)SD2の原因遺伝子はMKK3遺伝子であり、種子休眠性を強化することにより穂発芽耐性にするMKK3対立遺伝子を識別するDNAマーカーは穂発芽耐性の改良に有用である。

  • キーワード:穂発芽、種子休眠、量的形質遺伝子座(QTL)、MKK3遺伝子、DNAマーカー
  • 担当:次世代作物開発研究センター・麦研究領域・麦類形質評価ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7443
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

オオムギは、収穫期が「梅雨の走り」の雨の多い季節と重なり、収穫前に穂上で種子が発芽する「穂発芽」が起きやすい。これが品質の低下につながり、大きな問題となっている。穂発芽耐性は、種子休眠性に大きく影響され、休眠性が強ければ、穂発芽耐性が向上する。種子休眠性に関与する遺伝子の解析が進展は、オオムギ穂発芽耐性の改良の効率化につながる。このために、種子休眠性を強くする対立遺伝子を同定し、その識別に有効なDNAマーカーを開発して、育種過程における穂発芽耐性選抜を効率化する。

成果の内容・特徴

  • 六条大麦品種「アズマムギ」(休眠性強)と二条大麦品種「関東中生ゴールド」(休眠性弱)の休眠性の差異は、主に5H染色体長椀末端に座乗するQTL Qsd2-AK座によって決定されている(図1)。
  • Qsd2-AK座の原因遺伝子は、タンパク質リン酸化酵素Mitogen-activated Protein Kinase Kinase 3 (MKK3)遺伝子であり、種子休眠強型対立遺伝子の一塩基置換により、作られるMKKタンパクのリン酸化酵素ドメイン上において260番目のアミノ酸残基アスパラギン(Asn)がトレオニン(Thr)に置換される(図2)。これによってMKK3のリン酸化酵素活性が低下し(データ省略)、発芽遅延が生じることによって、休眠性が強くなり、その結果として穂発耐性が向上する(図3)。
  • MKK3遺伝子の休眠強型と弱型の遺伝子の違いを決めている一塩基置換を識別するDNAマーカーにより、穂発芽耐性の強い個体を判別できる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • オオムギの穂発芽耐性形質に関するDNAマーカー選抜に利用できる。
  • 種子休眠性は、複数の遺伝子が関わる形質である。休眠強型の対立遺伝子の効果は、導入した品種の遺伝的背景により異なる。
  • 休眠強型MKK3対立遺伝子は、東アジアの多くの品種が持ち、ヨーロッパ等他の地域の品種は、ほとんど持っていない。また、日本の六条大麦品種の多くが持ち、二条大麦品種の多くは持っていない。
  • コムギの4A染色体長椀に座乗する主要な種子休眠QTLPhs1座の原因遺伝子もMKK3遺伝子であり (Torada A. et al. (2016) Curr. Biol. 26(6):782-787)、コムギでもMKK3遺伝子が穂発芽耐性形質の改良にも役立つとことが示されている。

具体的データ

図1 種子休眠QTL Qsd2-AK座?図2 休眠弱型及び強型MKK3遺伝子塩基配列の差異?図3「アズマムギ」を背景にした場合の休眠強型MKK3遺伝子の効果発芽試験(15°C、7日間、N=3穂)穂は2010年収穫?図4 休眠強型MKK3遺伝子を識別するDNAマーカー(PCR増幅断片を制限酵素AfaI処理したアガロース電気泳動写真)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2005~2015年度
  • 研究担当者:中村信吾、Mohammad Pourkheirandish、森重弘美、久保佑太(香川大農)、中村雅子(香川大農)、市村和也(香川大農)、瀬尾茂美、金森裕之、呉健忠、安藤露、Goetz Hensel(IPK)、Mohammad Sameri、Nils Stein(IPK)、佐藤和広(岡山大)、松本隆、矢野昌裕、小松田隆夫
  • 発表論文等:
    1)Nakamura S.et al. (2016) Curr. Biol. 26(6):775-781
    2)中村ら「植物の種子休眠性を支配する遺伝子およびその利用」 特許第5776958号(2015年7月17日)