低温要求量が少なく早生で品質優良なモモ新品種「さくひめ」

要約

「さくひめ」は早生で果実肥大に優れ食味良好なモモ新品種である。本系統の休眠覚醒するために必要な7.2°C以下の低温要求時間は約560時間であり、主要品種より低温要求量が少ない。

  • キーワード: モモ新品種、早生、高品質、低温要求量
  • 担当: 果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・核果類育種ユニット
  • 代表連絡先: 電話 029-838-6453
  • 分類: 普及成果情報

背景・ねらい

落葉果樹は冬の自発休眠から覚醒するためには一定時間の低温に遭遇する必要があり、わが国のモモの主要品種では7.2°C以下で1,000~1,200時間が必要とされている。今後気候温暖化が進行した場合、休眠から覚醒するために必要な低温要求量を満たせず、モモの露地栽培に適さない地域が増加する可能性がある。海外には亜熱帯地域でも栽培可能な低温要求量の少ない品種が存在し一部は導入されているが、主要品種よりも果実品質が劣る。そこで、これらの導入品種を用いた交雑を行い、わが国の早生の主要品種である「日川白鳳」よりも収穫期が早く、果実形質が同等以上の低温要求量が少ない品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 2003年に農研機構果樹研究所(現 果樹茶業研究部門)において、ブラジルから導入した低温要求量の少ない品種「Coral」の後代実生である296-16に332-16を交雑して得られた実生から選抜した。2010年から2015年までモモ9回系統適応性検定試験に供試してその特性を検討し、2016年2月の同試験成績検討会において新品種候補とした。2016年6月9日に品種登録出願し、2017年2月9日に出願公表された。
  • 切り枝法による4年間の調査(2012~2015年、茨城県つくば市)の結果、「さくひめ」の低温要求量は7.2°C以下の低温要求時間で約560時間であり、わが国の主要品種と比べて少ない(表1)。
  • 樹勢は強く、花芽の着生は多い。花粉を有し、結実良好である。開花盛期は育成地では3月下旬で、低温要求量が少ないため「日川白鳳」より9日程度早い。収穫盛期は6月下旬で「日川白鳳」より5日程度早い(表2)。
  • 果実は重さが250g程度で、「日川白鳳」と同程度である。成熟しても果皮の地色に緑色が残る傾向がある。果皮の赤着色はやや多い。果点や裂果の発生が「日川白鳳」より多くなる年がある。果肉色は白色である。糖度は12-13%前後で「日川白鳳」と同程度となり、酸味は少なく食味良好である(表3、図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:モモ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国のモモ生産地で栽培可能である。特に、早生品種の栽培割合の高い西日本の産地を中心に普及が期待される。
  • 宮崎市の気温(2014年冬~2015年春)が2°C上昇したと仮定した場合、宮崎市の低温積算は約630CHとなり、主要品種の低温要求量は満たされないため開花の遅れ等が想定されるが、「さくひめ」は安定した開花が期待できる。
  • その他:果点や裂果の発生が「日川白鳳」より多くなる年が認められるため、有袋栽培が望ましい。灰星病、せん孔細菌病などには罹病性のため、適切な防除が必要である。開花期が早いため、他の品種よりも開花期の晩霜害のリスクが高まる。

具体的データ

図1 「さくひめ」の果実(有袋栽培); 表1 「さくひめ」の低温要求量; 表2 「さくひめ」の樹性; 表3 「さくひめ」の果実特性

その他

  • 予算区分: 交付金
  • 研究期間: 2003~2016年度
  • 研究担当者:
    八重垣英明、末貞佑子、澤村豊、山口正己、土師岳、安達栄介、山根崇嘉、 鈴木勝征、内田誠
  • 発表論文等:
    1) 八重垣ら「さくひめ」品種登録出願第31234号(2017年2月9日出願公表)
    2) Sawamura Y. et al. (2017) Hort. J.