少数の祖先品種から交雑を繰り返すことで多様なカンキツ品種が発生した

要約

国内外の多様なカンキツ在来品種の遺伝解析から67品種で親品種と交雑組合せが示され、在来品種の多くはキシュウミカンやユズ、ダイダイ、コウジ、タチバナ、スイートオレンジなど少数の祖先品種が交雑を繰り返すことで発生してきたと推定される。

  • キーワード:カンキツ、DNAマーカー、遺伝子型解析、品種系譜、細胞質遺伝子型
  • 担当:果樹茶部門・カンキツ研究領域・カンキツゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カンキツには150以上の品種が知られており、これらは祖先品種が交雑を繰り返して発生した雑種起源であると考えられている。近年、カンキツのゲノム解析からブンタン、マンダリン、シトロンに野生パペダの4つを祖先種とするモデルが提唱され、一部の品種では親子関係が明らかにされてきたが、多くの在来カンキツについてはいまだその来歴は不明である。国内外の多様な在来品種の来歴を明らかにすることは、多様なカンキツ品種の起源を知るだけでなく、重要形質に関わる遺伝子の由来や、これまで利用されてこなかった品種の重要性解明に貢献すると期待される。しかしカンキツは遺伝的な多様性が広いために従来のDNAマーカー分析では遺伝子型が矛盾することが多く、類縁関係を推定する際の障害となっている。そこでカンキツの育種と来歴に関する新たな知見の集積を目的に、高精度DNAマーカーによる核ゲノムの遺伝解析から在来品種の類縁関係を推定するとともに、オルガネラゲノムの遺伝解析から種子親と花粉親の組合せを推定することでカンキツ在来品種の来歴を解明する。

成果の内容・特徴

  • 122の親子間で矛盾がない高精度SSRおよびINDELマーカー123点を用いたカンキツ在来品種・系統269点の遺伝解析から、ウンシュウミカンやイヨ、カボスやハナユなど22品種の両親品種が特定され、細胞質の遺伝子型解析から種子親と花粉親の組合せが決定される。同様の解析から、ハッサクやヒュウガナツなど45の在来品種において片親となる品種と、もう一方の親品種が備えるべき細胞質遺伝子型が推定される(図1~3)。遺伝統計解析から、推定された親子の組合せは十分に信頼できることが示される。
  • 同一遺伝子型の系統は枝変りなどの突然変異由来であると確認される一方で、タチバナなどでは遺伝子型の異なる系統が見いだされ、複数の起源を持つことが示唆される(図2)。
  • 推定された在来品種の親子関係から、多くのカンキツ品種はキシュウミカンやユズ、ダイダイ、コウジ、タチバナ、ブンタンなど少数の品種から交雑を繰り返すことで発生したことが示される。このうちキシュウミカンは多数の在来品種の親となっていることから、現在のカンキツ品種が成立する上で重要な役割を果たしていることが強く示唆される(図1)。
  • 複数のタチバナ系統はそれぞれハナユやヒュウガナツなどの親として多様な在来品種の発生に重要な役割を果たしていることが示される(図2)。また、スイートオレンジは交雑を繰り返すことでクレメンティンのほかテンプル、クラボマンダリンやタンカンなどを生み出したことが示される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 在来品種の特性を突然変異ではなく交雑育種により改良することが可能となる。
  • 多様な在来品種の来歴を詳細に解析することで、これまでは育種に利用されていなかった品種と交雑組合せの可能性を提示することが可能となる。
  • 本研究で開発し使用した核と細胞質のDNAマーカーは多様なカンキツ品種で信頼性の高い結果が得られ、品種同定や親子関係の推定、遺伝解析に利用することができる。

具体的データ

図1 キシュウミカン、ユズ、ダイダイ、コウジ等を親とするカンキツ品種の系譜?図2 複数のタチバナ系統を親とするカンキツ品種の系譜?図3 スイートオレンジを親とするカンキツ品種の系譜

その他

  • 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2016年度
  • 研究担当者:清水徳朗、野中圭介、吉岡照高、太田智、後藤新悟
  • 発表論文等:Shimizu T. et al. (2016) PLoS ONE 11(11): e0166969.
    doi:10.1371/journal.pone.0166969