天敵が主役の<w天>防除体系 「新・果樹のハダニ防除マニュアル」

要約

リンゴ、ニホンナシ、オウトウ、施設ブドウ、施設ミカンを始めとする果樹のハダニ管理において、天敵利用を主体とする持続的防除を、地域や栽培環境に適合して体系構築し実践するために活用する技術マニュアルである。本防除体系の導入により、殺ダニ剤散布回数を年1回以下に抑制できる。

  • キーワード:果樹、ハダニ、天敵、カブリダニ、IPM
  • 担当:果樹茶業研究部門・生産・流通研究領域・虫害ユニット、リンゴ研究領域・リンゴ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6416
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

果樹の重要害虫であるハダニ類は化学合成殺ダニ剤(以下、殺ダニ剤)に対する抵抗性の発達が早く、殺ダニ剤に依存した現在の防除には限界がある。また、果実輸出の推進においては、相手国の残留農薬基準値を考慮した農薬の使用が求められ、基準値のない新剤の使用が制限される。
そこで、ハダニ類の有力な天敵であるカブリダニ類について、"果樹園に自然に生息する土着のカブリダニ"と"製剤化されたカブリダニ"、それぞれの長所を最大限に活かすことにより、殺ダニ剤への依存を大幅に減らした新しいハダニ防除体系をマニュアルとして公表し、都道府県の普及指導者や生産者に対して天敵利用技術を普及する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、果樹のハダニ管理に、天敵利用を主体とした持続的防除体系(通称、<w天>防除体系)を導入するための手引書である(図1)。リンゴ、ニホンナシ、オウトウ、施設ブドウ、施設ミカンにおけるモデル体系、および体系構築の下地となるハダニ類や天敵類に関する基礎知識、基盤技術の解説、ならびに化学合成農薬の天敵類に対する影響リストを掲載し、<w天>防除体系の構築から実践までを総合的に支援する。
  • <w天>防除体系の基本的枠組みは、(1)天敵に配慮した病害虫防除、(2)天敵にやさしい草生管理、(3)補完的な天敵製剤の利用、(4)協働的な殺ダニ剤の利用の4つのステップで構成される(図2)。導入効果として、殺ダニ剤の散布回数の削減(年1回以下)と薬剤散布の省力化、ハダニ類の殺ダニ剤に対する抵抗性の発達抑制、輸出時における残留農薬基準値問題の回避などが期待できる。
  • ハダニ類以外の病害虫防除には、天敵類に影響の少ない薬剤を用いる。耕種的防除法、物理的防除法、生物的防除法を積極的に取り入れる。一方で、非選択性殺虫剤、特に天敵類に対して悪影響が長く続く合成ピレスロイド剤の使用は必要最低限とする。薬剤選択の際の参考資料として、各種殺虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤について、統一的な手法で評価された土着カブリダニ類とカブリダニ製剤に対する影響の大きさを使用上の留意点とともに掲載している。
  • 天敵保全の観点から下草管理に草生栽培を取り入れる。カブリダニ類を温存する下草の重要性とともに、導入しやすい管理手法として、除草時に草丈を残す高刈りや、株元のみ無除草で下草を維持する株元自然草生、ホワイトクローバーなどカバープランツを用いる方法を紹介している。
  • 施設栽培など土着カブリダニ類が働きづらい栽培条件、カブリダニ密度が思うように上がらない環境や時期、土着天敵類に影響の大きい薬剤を使わざるを得ない状況など、土着カブリダニ類によるハダニ防除効果が十分に見込めない場合は、市販されているカブリダニ製剤を補完的に放飼する。バンカーシート®は、雨や農薬から製剤を守るシェルターとしての機能、製剤内の温度緩和・湿度保持効果等を有し、同資材を用いることにより放飼個体数は2倍以上に増加する。これら製剤の特性に加え、使用方法や設置方法を解説している。
  • 安定したハダニ防除を行うため、天敵への影響に留意しつつ殺ダニ剤を協働的に用いる。カブリダニ製剤放飼前にハダニ類の先行的な増殖を抑制する放飼前防除、ハダニ密度が一定の基準を超えた場合に実施するレスキュー防除のほか、ハダニ類の急増が予測される時期にスケジュール的に行う補完防除など、具体的な例をモデル体系の中で解説している。
  • マニュアルでは、上記樹種のモデル体系の実施にあたってのポイントに加え、併用する薬剤の候補や現地実証事例を、写真や図表を用いて分かり易く解説している(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:都道府県試験研究機関および普及指導機関、果樹生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:本マニュアルは、リンゴ(36,500ha)、ニホンナシ(11,700ha)、オウトウ(4,320ha)、施設ミカン(415ha)、施設ブドウ(194ha)を始めとする果樹の生産地のうち、ハダニ管理が問題となっている地域を中心に活用される。また普及機関での技術指導に利用される。
  • その他:<w天>防除体系の導入初期にあたっては、使用地域の試験研究機関や指導普及機関等と連携し、使用を避けるべき薬剤の種類や期間、注意すべき栽培管理等について徹底を図る。

    マニュアルに関する問い合わせ先:農研機構果樹茶業研究部門
    カブリダニ製剤に関する問い合わせ先:石原バイオサイエンス株式会社

具体的データ

図1 新・果樹のハダニ防除マニュアル,図2 <w天>防除体系を構成する4要素,図3 モデル体系の例(ニホンナシ)

その他

  • 予算区分:競争的資金(農食事業、イノベ創出強化)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:外山晶敏、岸本英成、舟山健(秋田果試)、小松美千代(秋田果試)、伊藤慎一(山形農総セ)、高部真典(山形防除)、清水健(千葉農総セ)、中井善太(千葉農総セ)、福田寛(千葉農総セ)、澤村信生(島根農技セ)、角菜津子(島根農技セ)、山本隼祐(島根農技セ)、川内孝太(佐賀上場営農セ)、田代暢哉(佐賀上場営農セ)、園田昌司(宇都宮大)、森光太郎(石原産業)、吉村忠浩(石原産業)、中島哲男(石原バイオ)、平岡正(大協技工)
  • 発表論文等: