公共牧場等における草地管理の効率化を支援する「草地管理支援システム」

要約

本システムは放牧草地の地理情報に基づく電子地図に、施肥や更新等に関連する情報を重ね合わせて各作業が必要なエリアを抽出し、資材や作業時間の削減を可能とする。加えて飲水場等の施設位置や作業軌跡の記録・表示機能も備え、作業の引継ぎも支援する。

  • キーワード:公共牧場、効率化、地理情報、放牧草地、草地管理
  • 担当:畜産研究部門・草地利用研究領域・山地放牧ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

全国の公共牧場の多くで経営の合理化に向け、草地管理の効率化が求められている。特に1つの牧区が広大でかつ複雑な地形の放牧草地で草地管理作業を効率化するためには、必要な場所のみに適切な作業を行うことが必要であるが、これまでの作業配分は牧区単位で大まかに、または熟達した管理者の勘に頼って行われている場合が多い。そこで、牧区内の管理作業が必要なエリアを客観的に決定し、管理者がその情報を事前に地図上で確認できるシステムを構築する。加えて、これまで別々に管理されていた地図や植生管理簿、作業状況等の草地管理に関する情報を一元的に管理でき、効率的な草地管理と作業の引継ぎを支援するシステムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、1)地図等を表示するGIS(地理情報システム)機能、2)植生情報や写真等を記録する台帳機能、3)作業エリアの抽出を行う空間解析機能、で構成される(表1)。
  • 空間解析機能では図1に示すように、傾斜区分に基づいた「ゾーニング図」に、障害物の位置や排泄ふんの分布等、施肥や草地更新等に関連する情報(レイヤ)を重ね合わせて各作業が必要なエリアを抽出し、地図上に表示する。管理者はこの情報を目安に資材や労働力を事前に適正に配分することで管理の効率化を図ることができる。
  • トラクタに搭載した軌跡情報を記録できるGPS端末のデータをシステムに転送することで、おおよその作業軌跡と作業範囲が表示できる(図2)。これにより、作業範囲の確認や、トラクタが進入できないエリアの抽出に加え、熟達した管理者の作業ルートが確認できることにより、作業の引継ぎにも活用することができる。
  • 本システムはクラウドサービスにより運用されるため、Webが閲覧できるPC環境であればソフトウェアをインストールすることなく、放牧草地や事務所等、場所を選ばずに利用することができる(図3)。
  • 本システムで利用者が行う作業は、放牧草地でのデータの取得・入力・転送が主となる。空間解析やデータのバックアップ等はクラウド上のデータセンターで自動処理されるため、初心者でも扱いが可能であり、現場への導入が容易である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:傾斜放牧草地を含み草地管理作業の効率化を目指す公共牧場等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:5年以内に10牧場、また10年以内に20牧場への導入を目標とする。現在は2牧場で試験運用中。
  • その他:利用には初期費用(牧場地図等の整備費)とシステムの月額使用料が必要である。試験運用中の牧場(放牧草地面積252ha)における実証試験では、本システムの導入により肥料代が20%程度削減され、2-3年の利用で導入コストを上回る合理化効果が得られると試算されている。本成果は、「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち産学の英知を結集した革新的な技術体系の確立)」により得られた。

具体的データ

表1 システムを構成する主な機能と内容;図1 空間解析機能による施肥エリアの抽出イメージ;図2 携帯型GPS端末で記録した施肥作業時におけるトラクタの走行軌跡と作業範囲の表示例;図3 Webを介した情報の流れ

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(25補正「革新プロ」)
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:北川美弥、井出保行、中尾誠司、渡辺也恭、西村一人(株式会社パスコ)、三谷歩(株式会社パスコ)、川井将之(株式会社パスコ)
  • 発表論文等:
    1)西村、井出(2017)日草誌、62(4):207-211
    2)北川(2017)日草誌、62(4):212-215
    3)農研機構(2016)「牧場管理効率化マニュアル」(2016年3月4日)
    4)農研機構(2016)「草地管理支援システムの紹介」NARO channel , (2016年2月25日)