アミノ酸バランス改善飼料の給与による豚舎汚水中の「硝酸性窒素等」低減効果の実証

要約

アミノ酸バランス改善飼料の豚への給与は、現有の汚水浄化処理施設のままで豚舎汚水処理水中全窒素を、慣行飼料給与時に比べて約35%低減することが可能である。水質改善効果に加え、温室効果ガスも低減する。

  • キーワード:硝酸態窒素、養豚汚水、活性汚泥、水質規制、アミノ酸
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

養豚農家では、ふん尿に含まれる窒素を浄化処理により低減して排出している。処理水中の窒素は水質汚濁防止法により厳しく制限されており、2016年7月に養豚業等に適用される「硝酸性窒素等」(アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物)の排水基準(暫定基準)が700mg/L から600mg/Lに引き下げられた。このため、新しい暫定基準、さらには一般基準(100mg/L)への適合に向けた対応が求められている。浄化処理能力の向上は設備の増強によっても実現できるが、更新・改修には多くの費用がかかるため、容易ではない。そこで経費を抑えつつ排水中の窒素を低減させる方策としてアミノ酸バランス改善飼料の導入による畜舎汚水浄化処理への効果を検証する。

成果の内容・特徴

  • アミノ酸バランス改善飼料(バランス飼料)は、慣行飼料よりタンパク質含量が3%低く、4種類の必須アミノ酸(リジン、メチオニン、トレオニン、トリプトファン)を添加した配合飼料である(表1)。本飼料は肥育豚の通常飼養条件に合わせて調製されており、価格は慣行飼料と同額か、やや安価である。
  • バランス飼料を与えた肥育豚では、肥育後期における尿中排せつ窒素量(全窒素)が、慣行飼料と比べ5割以上低減する。さらに、ふん尿の標準的な回分式活性汚泥浄化処理後の処理水に含まれる全窒素は慣行飼料に比べて約35%低減し平均202mg/Lに、硝酸性窒素等は100 mg/L程度まで低減する(図1)。
  • さらに、バランス飼料を与えた場合は、浄化処理過程で発生する温室効果ガス(一酸化二窒素)が9割削減し(表2)、排せつ窒素量の減少が、そのまま温室効果ガス削減効果に繋がる。
  • 出荷体重110 kg(試験終了時)までの肥育豚の日増体量は、バランス飼料・慣行飼料を与えた場合共に0.94~0.99 kg で有意差はなく、また日本飼養標準(農研機構,2013)の標準値の範囲内である。さらに肥育豚の枝肉格付も、上物率がバランス飼料を与えた場合は75%、慣行飼料の場合は72.7%と同等の成績で、バランス飼料の利用が生産性に影響しない。

普及のための参考情報

  • 普及対象:養豚農家、畜産関係普及組織、農業環境関係行政担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:汚水浄化処理施設の普及地域
  • その他:
    1)茨城県の銘柄豚飼料設計に基づいてバランス飼料の実証実験を行ったが、基本的に他の銘柄豚についても慣行飼料に対する肥育成績や浄化成績は同様と考えられる。
    2)バランス飼料は飼料の公定規格「環境負荷低減型配合飼料(子豚育成用及び肉豚肥育用)」に適合しており、同等の飼料が国内数社から販売されている。
    3)バランス飼料の利用により、窒素排出の低減に伴う悪臭防止効果も期待できる。
    4)バランス飼料は温室効果ガス削減効果を持つことから、本飼料の導入により、温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証する「J-クレジット制度」の活用が可能となる。

具体的データ

表1バランス飼料の組成;図1豚舎汚水浄化処理におけるバランス飼料導入の窒素濃度低減効果;表2アンモニア、一酸化二窒素とメタンの排出量および排出係数

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、その他外部資金(資金提供型共同研究)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:長田隆、荻野暁史、須藤立(茨城県西農林事務所)、羽成勤(茨城県畜産セ)、吉田知夏(味の素)、塔ノ上毅(住友化学)、松井大典(住友化学)
  • 発表論文等:
    1) 須藤ら(2016)日本畜産学会報Vol.87.No.4
    2) アミノ酸添加低蛋白質飼料給与技術による肥育豚からの温室効果ガス排出削減(農研機構畜産草地研究所 2012年の成果情報)