炎酸化ステンレス鋼負極は微生物燃料電池の発電を促進させる

要約

ステンレス鋼の表面を炎で酸化させると酸化鉄が形成され、微生物燃料電池の負極として用いると発電細菌であるGeobacter属細菌が増殖し、従来のカーボン系電極(カーボンクロス)よりも高い出力を示す。

  • キーワード:微生物燃料電池、金属系負極、エネルギー回収、排水処理
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

畜舎排水や食品加工場からの排水など農業系排水の適正処理とエネルギー回収技術の開発が望まれている。微生物燃料電池(MFC)は、微生物が有機物を嫌気的に分解する際に生じる電子を負極で回収して発電する新しバイオリアクターである。発電に伴って有機物が分解されることから、排水浄化(有機物除去)の機能を合わせ持つ。MFCの実用化には、発電力および浄化性能を向上させる必要がある。MFCの負極は微生物から電子を受け取る電極であり、発電において重要な機能を担っている。負極素材として一般的にカーボン系素材が使われている。金属系素材は微生物との相性が悪いために殆ど使用されない。しかし、多くの発電細菌は酸化金属を還元する活性を持つことから、金属系素材はMFC発電を促進するポテンシャルを持っていると推測できる。Geobacter属細菌は高い発電活性を持つ細菌で、嫌気性条件下で酢酸の酸化反応と酸化鉄の還元反応を共役させエネルギーを得ることができる。そこで、酸化鉄を主成分とする負極を開発することでMFC出力の向上を試みる。

成果の内容・特徴

  • ステンレス鋼は主にFe, Ni, Crから成る合金である。ステンレス鋼を炎で炙り表面を酸化させると、多数の隆起物が形成される(図1)。X線回折解析の結果から、隆起物は主としてヘマタイトと呼ばれる酸化鉄(Fe2O3)から構成される(図2)。
  • 一槽式エアーカソードMFC(プロトン交換膜あり)に炎酸化ステンレス鋼負極または未処理ステンレス鋼、従来型(カーボンクロス電極)を装着してペプトン培地を供与して発電性能を比較すると、炎酸化ステンレス鋼負極が最も高い発電を示す(図3)。菌叢解析からカーボンクロスよりもGeobacter属細菌が電極表面に優先化していたことから、炎酸化ステンレス鋼負極の高い発電性能は表面の酸化鉄によりGeobacter属細菌が集積された結果であると推測される。
  • 図4は一槽式エアーカソードMFC(プロトン交換膜なし)に炎酸化ステンレス鋼負極を装着して、ペプトン培地と酢酸培地を供与したときの発電性能を示している。酢酸培地を用いた場合に正極の表面積あたり約1.1 W/m2の出力が得られる。従来型負極によるMFC出力は一般的に0.2~0.8 W/m2程度であることから、炎酸化ステンレス鋼負極は既存のカーボン系電極よりも高い発電性能を示す。

成果の活用面・留意点

  • これまでMFCの負極素材はカーボン系が適していると考えられてきたが、本成果から金属系負極の有用性が初めて示され、MFC出力の向上に向けた有用な知見となる。
  • 炎酸化ステンレス鋼負極はステンレス鋼を炎で炙るだけで簡単に調整でき、カーボン系素材と比較して成形や大型化が容易である。さらにカーボン系電極よりも安価であることから、MFCの研究用負極として有用である。また、発電細菌を利用したバイオセンサーの電極や微生物電気分解セルの負極としても有用であると考えられる。
  • 炎酸化ステンレス鋼負極は従来型よりも高い出力が得られたが、MFCを発電装置として実用化するには、さらに数倍以上の出力向上が必要である。

具体的データ

図1 ステンレス鋼の未処理(上)及び炎酸化処理後(下)の電子顕微鏡(SEM)画像?図2 X線回折(XRD)による未処理と炎酸化処理後のステンレス鋼の結晶構造解析結果?図3 各種負極を備えたMFC出力の比較(正極の表面積あたり)?図4 2種類の培地による炎酸化ステンレス鋼負極の出力(正極の表面積あたり)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:横山浩、山下恭広、石田三佳、荻野暁史
  • 発表論文等:
    1)Yamashita T. et al. (2016) Biotechnol. Biofuels 9:62:1-10
    2)横山ら「微生物燃料電池用電極およびその製造方法、ならびに微生物燃料電池」
  • 特願2015-000325 (2015年1月5日)