排水処理に役立つBOD(生物化学的酸素要求量)監視システム

要約

水質の指標であるBODを3段階の濃度別に判定する全自動システムである。発電細菌を利用して6時間以内の迅速な判定が可能で、畜産排水の処理施設において曝気槽や放流水の水質を監視する。スマートフォンでBODやpHの閲覧、異常値を通知するアラート機能付きのIoTを備えている。

  • キーワード:水質監視、BOD、発電細菌、水処理、IoT
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8647
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

BODは一般的に使用されている水の汚れの指標であり、河川や水処理において重要な測定項目である。従来法によるBOD測定は、手動で操作を行い5日間もの長い測定時間が必要である。BODを短時間かつ自動で測定できれば、養豚排水などの処理施設において放流水の水質監視や運転トラブルの早期発見に役立つ。さらに、BOD値に基づく制御が可能になり、省エネなど水処理プロセスを高度化できる。そこで、本研究では近年注目されている発電細菌を利用して、迅速にBOD濃度を判定できる新しいシステムを開発する。発電細菌とは、有機物を分解して電流を発生させる活性を持つ細菌グループの総称であり、土壌や活性汚泥、畜舎排水など様々な環境に存在している。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、3本の電極(炎酸化ステンレス鋼製の作用電極(2016年度研究成果情報https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nilgs/2016/nilgs16_s09.html)、対極、Ag/AgCl参照電極)を電位制御装置(ポテンショスタット)に接続した構造である(図1)。反応槽の容量は30Lであり、ヒーターで30°Cに加温する。排水処理施設の曝気槽や最終沈殿槽に設置して、サンプリングから測定、データ送信までを全自動で行う(図2)。
  • 排水を装置に投入して排水に含まれている発電細菌を作用電極に付着させる。発電細菌が発生する電流は、曝気槽の上澄みのBOD濃度に相関する。図3は、農研機構(つくば)に設置した試験用の小型曝気槽と熊本県の養豚排水処理施設の曝気槽で行った実験結果が示されている。曝気槽が正常に管理されている場合、高い精度で判定できる(決定係数R2 > 0.8)。
  • 排水を水中ポンプで装置に投入して測定を開始する。上澄みのBODを6時間で判定できる。排水基準を参考に◎(< 50mg/L)、○(50~100mg/L)、×(> 100mg/L)の3段階で表示する。
  • IoT機能によりデータはwebサーバーに格納され、スマートフォンやPCでBODやpH、水温などを簡単に把握できる(図4)。グラフ表示とCSVフォーマットでデータのダウンロードもできる。BODやpHが設定値を超えた場合や装置に異常があるとメールを送信するアラート機能付である。
  • 本装置は外部出力を備えている。BOD値に基づいて曝気槽のブロアーをOn/Off制御して、無駄な曝気の削減(節電)や間欠曝気時間の最適化による窒素除去などに利用可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:畜産の排水処理施設
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国の排水処理施設を持つ畜産経営
  • その他:本装置は公定法に代わるものではない。水質汚濁防止法に定められている年1回以上の測定義務では公定法による測定が必要である。2020年に販売予定であり100~160万円の価格を想定している。設置から測定開始まで1ヶ月の馴養期間が必要である。BODの測定範囲は約40~250mg/Lである。正確な判定には、曝気槽の適切な運転管理(活性汚泥沈殿率SV30 30~60%)が必要である。SV30が60~90%の曝気槽では曝気停止中の上澄みか、または沈殿槽の排水を装置に投入して測定する。対極とpH電極は定期的な交換が必要である。

具体的データ

図1 BOD測定の概念図,図2 BOD監視システムの試作機,図3 発電細菌の電流(測定開始から6時間後)と従来法(硝化抑制剤を加えて20°Cで5日間培養)で測定した曝気槽上澄みのBODとの相関,図4 IoTのwebイメージ

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(27補正「地域戦略プロ」、28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:横山浩、山下恭広、水口人史(山形東亜DKK)、伊藤和紀(山形東亜DKK)、松井敏也(山形東亜DKK)、佐藤義則(丸山)、高橋一寿(リセルバー)、長谷川輝明(千葉県畜総セ)、鶴田勉(熊本県農研セ)、大川夏貴(熊本県農研セ)、林田雄大(熊本県農研セ)、鈴木直人(沖縄県畜研セ)、二宮恵介(沖縄県畜研セ)、森弘(宮崎県畜試)、五十嵐宏行(山形県農研セ)、梁翹楚(金沢大)、池本良子(金沢大)
  • 発表論文等:
    • Liang Q. et al. (2018) Sensors 18(2):E607
    • Yamashita T. et al. (2016) Sci. Rep. 6:38552
    • Yamashita T. et al. (2016) Biotechnol. Biofuels 9:62
    • 横山ら、特願(2016年1月7日)