越夏性に優れ転作田でも高品質な飼料が生産できるフェストロリウム品種「那系1号」

要約

フェストロリウム「那系1号」は、既存品種「東北1号」より出穂が6日早く、越夏性に優れ、寒冷地北部(北東北の中標高以下)から比較的冷涼な温暖地までの広範な地域(年平均気温9~13°C程度)を対象に採草用として転作田などで利用できる高消化性の牧草品種である。

  • キーワード:越夏性、飼料作、採草用、フェストロリウム
  • 担当:畜産研究部門・飼料作物研究領域・飼料作物育種ユニット
  • 代表連絡先:電話 0287-37-7807
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

フェストロリウムは、高品質・多収で耐湿性に優れたライグラス類(ペレニアルライグラスやイタリアンライグラス)と越冬・越夏性に優れたフェスク類(メドウフェスクやトールフェスク)を人為的に交雑させることによって、両種属の特性を合わせ持った牧草種である。フェストロリウムは、東北地方(北部)を中心にイタリアンライグラスが越冬できない地域で利用できる高品質で多収な採草用の多年生牧草として利用が期待される。
これまで寒冷地向きのフェストロリウム品種として海外導入品種の「バーフェスト」や収量性を向上させ、耐湿性を活かして転換畑でも利用可能な採草用の「東北1号」が販売されてきたが、これらの品種は出穂が遅く(中生の晩)、温暖地における越夏性も不十分で永続性が低い。そこで越夏性にも優れ、東北北部の寒冷地から、比較冷涼な温暖地に適した広域適応性で、出穂が早い(中生の早)品種を育成し、普及を図る。また、オーチャードグラスと比べて、耐湿性、初期生育、消化性などに優れる点が期待される。

成果の内容・特徴

  • 「那系1号」の乾物収量は、8試験地9試験で標準品種「東北1号」と試験期間の合計で比べると102~148%、平均で108%であり、全ての試験場所において"同等"以上である(図1)。
  • 「那系1号」は、8月以降の乾物収量が全試験地で「東北1号」より高く(図2)、越夏性にも優れる(表1)。また、越夏性に関連する病害である葉腐病および冠さび病抵抗性にも優れる(表1)。
  • 「那系1号」は、「東北1号」より出穂始日が6日早く、草丈が高い(表1)。また、越冬性、早春・秋の草勢、消化性(セルラーゼによる乾物分解率)、耐倒伏性、および採種性は「東北1号」と"ほぼ同等"の水準にある(表1)。
  • 「那系1号」は、オーチャードグラス中生品種「まきばたろう」と比較して、初期生育や消化性が大幅に優れる(表1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:酪農家、肉牛農家、飼料作物委託生産支援組織
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:寒冷地~冷涼な温暖地で、概ね年平均気温が9~13°Cの地域(試験地の年平均気温)。普及予定面積は1000ha。青森・岩手・福島県で奨励品種に採用されている。
  • その他:1)2018年度から種子の販売が開始されており、雪印種苗(株)等から入手できる。2)年3~4回の刈取りが可能である。猛暑による夏枯れが発生する場合があり、越夏前の刈取りは梅雨明けを目安に10cm以上の高刈りにするとともに、夏枯れが発生した場合は、晩夏の刈取りを遅らせ植生の回復を図る。3)耐湿性に優れるため、転換畑での利用が可能である(図3)。また、初期生育に優れるため既存草地への追播が可能であり、出穂が早いため中生オーチャードグラス品種との混播にも適する。

具体的データ

図1 「那系1号」と「東北1号」の試験期間中の合計乾物収量,図2 「那系1号」と「東北1号」の8月以降の乾物収量,表1.「那系1号」の諸特性,図3.転換畑への導入事例

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2001~2019年度
  • 研究担当者:内山和宏、荒川明、清多佳子、水野和彦、小松敏憲
  • 発表論文等:内山ら「那系1号」品種登録第25265号(2016年7月5日)