養豚汚水浄化処理施設からの温室効果ガス排出を大幅削減する炭素繊維リアクタ-

要約

炭素繊維リアクターは、繊維表面での生物膜表層の好気的反応と、深層での嫌気的脱窒反応でバランス良く温室効果ガス排出抑制型の浄化処理を可能とする。全国の養豚排水浄化処理施設への導入により、二酸化炭素換算で年間60万トンの排出を削減でき、持続可能な畜産物の生産に寄与する。

  • キーワード:汚水浄化、豚、GHG、実処理施設、SDGs
  • 担当:畜産研究部門・畜産環境研究領域・水環境ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-8647
  • 分類:過年度普及成果情報(2014)

背景・ねらい

気候変動の影響が顕在化する中、農業においても温室効果ガスの排出が問題となっている。日本では、畜産経営の堆肥化や汚水浄化など家畜排せつ物の処理・管理過程で発生する温室効果ガスが、二酸化炭素等量で年間630万トンと、農業系排出の10~15%を占めると算定されており、これらの排出を削減する技術が求められている。
これまでに養豚汚水浄化処理施設からの温室効果ガス排出を大幅に削減できる炭素繊維リアクターを開発し、2014年度普及成果情報(https://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/nilgs/2014/14_056.html)を公表した。本研究では、岡山県農林水産総合センター、岡山JA畜産(株)と共同で、このリアクターの実際の養豚汚水浄化処理施設における温室効果ガスの排出削減効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 日本の養豚経営に必須な汚水浄化処理は、他の家畜排せつ物処理法と比べ、処理される窒素あたりの温室効果ガス排出量が多い(排出係数2.87%)。
  • 炭素繊維リアクターは、炭素繊維担体を曝気槽に投入することにより温室効果ガスの排出を削減できる。炭素繊維の表面に形成される生物膜の表層では好気的な硝化反応が起き、生物膜の深層では嫌気的な脱窒反応が起こる。この2種の微生物の良好なバランスで硝酸イオンや亜硝酸イオンが蓄積することなく浄化処理が行われるため、過度の一酸化二窒素の放出が回避される(図1)。
  • 肥育豚6,000頭規模の岡山JA畜産浄化施設で本リアクターの実証試験を行うと、温室効果ガスの排出(大部分が一酸化二窒素)を約80%削減できる(図2、図3)。
  • 本リアクターは既存施設に導入可能で、従来の活性汚泥処理法と同等の有機物処理能力を維持しつつ、窒素除去効果の向上も期待できる(データ省略、Yamashita T. et al.(2019))。
  • 本リアクターを全国の養豚汚水浄化処理施設に導入できれば、温室効果ガスの排出を二酸化炭素等量で年間60万トン削減できると試算される。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国内養豚経営、主として独自に流通経路を持っている企業養豚や共同浄化処理施設
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北海道を除く全国
  • その他:今回使用した炭素繊維リアクター(図4)の制作価格は1式あたり約100万円であり、肥育豚6000頭規模の浄化処理施設では、3式(300万円程度)の投入が必要と想定される。日本同様、集約的な家畜生産を行っている東アジア各国に本技術を広く周知し、各国での利用が可能。国内3カ所の実証試験を実施し、炭素繊維リアクターの耐久性等の情報を収集し、安価な導入システムとして改良中である。

具体的データ

図1 従来の活性汚泥法と炭素繊維リアクターの付着汚泥の違い(概念図),図2 汚水浄化処理施設(外観と処理槽、赤の反応槽にリアクターを設置),図3 炭素繊維リアクター導入による一酸化二窒素排出削減効果,図4 浄化槽内設置図とガス測定

その他