設置方法の違いを考慮した土壌水分センサーの校正式を求めるための室内試験

要約

黒ボク土や砂などの粗大間隙を多く含む土壌では、土壌水分センサーの設置方法が異なると出力値が大きく異なるため、攪乱土を採取して実験室で校正式を求めるための室内試験を実施する際は、現場でのセンサー設置方法と同じ方法を採用する必要がある。

  • キーワード:土壌水分センサー、校正式、土壌の圧縮、センサー挿入
  • 担当:農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域・畑整備ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

土壌の水分環境を正確に、安価で、簡便に測定するため、土壌水分計の利用拡大が求められている。土壌の誘電特性を測定するタイプ(誘電率式)の土壌水分センサーの場合、センサーの出力値から変換式(校正式)により土壌水分量を求める。そのため、センサーによる土壌水分量の測定精度は校正式の変換精度に依存する。これまで、土壌の種類や電気伝導度等が校正式に影響を与えることが知られているが、センサーの土壌内への設置方法の違いが校正式に与える影響を評価した事例はほとんどない。そこで、誘電率式土壌水分センサーの一つであるDecagon社のECH2O EC5を用い、センサーの設置方法の違いが出力値に与える影響を明らかにし、土壌水分量を正確に測定するために推奨される方法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 誘電率式土壌水分センサーの設置方法は、センサーの周囲に土壌を充填する方法(Method1)、センサー全体を土壌に挿入する方法(Method2)、センサーのフォーク部のみを挿入し、回路部周囲に土壌を充填する方法(Method3)がある(図1)。
  • 日本に分布する代表的な6種類の土壌(豊浦砂、黒ボク土、低地土、島尻マージ、水田土壌、山土)のうち、豊浦砂と黒ボク土ではセンサーの設置方法の違いにより出力値が大きく異なる(図2上)。一方、その他の土壌では、上記2つの土壌に比べると、センサーの設置方法の違いが出力結果に与える影響は少ない(図2下)。
  • センサーの設置方法の違いが出力結果に与える影響が特に大きい豊浦砂と黒ボク土では、pF2.0付近で土壌水分量が大きく減少することから(図3)、その他の土壌に比べ粗大な間隙を多く含むことがわかる。センサー挿入による土壌構造の変化を豊浦砂とガラスビーズについて観察したところ、センサー挿入によりセンサー周囲、特にセンサーとセンサーの間の土壌が圧縮され、密度が上昇することがわかる(図4)。このことから、センサー挿入に伴う土壌の圧縮によって単位体積当たりの水分量が上昇することで、センサーを挿入するMethod2とMethod3は、センサーの挿入による圧縮の影響を受けないMethod1に比べて出力値が高くなることがわかる。
  • 図2に示すセンサーの出力値と土壌水分量の関係は2次又は3次の多項式で良く近似される。得られた校正式を用いた場合、センサーの設置方法の違いにより黒ボク土で最大0.076m3m-3、豊浦砂で最大0.044m3m-3の誤差が生じる可能性があり、これらの土壌では特にセンサーの設置方法を考慮する必要がある。その他の土壌でも最大で0.025m3m-3の誤差を生じる可能性がり、センサーの設置方法の影響は無視できない。
  • 現場において精度の高い土壌水分測定を行うためには、現場で用いたセンサー設置方法と同じ方法により取得した校正式を用いる必要がある。例えば野外観測を想定した場合はMethod3で設置する場合が多いため、室内試験により校正式を得る際にはMethod3を用いることで汎用性の高い式が得られる。

成果の活用面・留意点

  • 本試験はDecagon社の誘電率式土壌水分センサー(ECH2O EC5)についての試験であるが、同様の形状を持った他のセンサーにも適用可能である。

具体的データ

図1 誘電率式土壌水分センサーの設置方法;図2 センサー出力値と土壌水分量の関係;図3 供試土壌の水分特性曲線;図4 センサー挿入前(上)と挿入後(下)の豊浦砂の様子

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(再エネ)、競争的資金(科研費)、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:岩田幸良、宮本輝仁、亀山幸司
  • 発表論文等:Iwata Y. et al. (2017) Eur. J. Soil Sci. 68:817-828