地震時のため池沈下量の簡易予測システム

要約

地震時の繰返し荷重によってため池堤体土の強度が低下する現象をモデル化することで、地震時のため池の沈下量を簡易に予測するシステムである。ため池の耐震診断・耐震設計・リアルタイム危険度予測に利用することができる。

  • キーワード:ため池、沈下量予測、地震、数値解析
  • 担当:農村工学研究部門・施設工学研究領域・土構造物ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7677
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

熊本地震や東日本大震災などの巨大地震(レベル2地震)では、地震中の繰返し荷重によってため池堤体土の強度が低下する現象(以下、強度低下)が発生し、ため池堤体が大きく沈下し、被害が発生した(図1(a))。現在、巨大地震を想定した耐震診断が推進されているが、耐震診断に必要な特殊な土質試験(液状化試験、繰返し三軸圧縮試験等)に多大なコスト(約1,000万円)と時間(約3か月)を要することが問題となっている。本研究は、巨大地震に対する1)ため池の耐震診断・耐震設計のコスト縮減・工期短縮と2)ため池のリアルタイム危険度予測を目的に、一般的な土質試験だけで地震時のため池沈下量を簡易に予測するシステム(以下、簡易予測システム)を開発する。

成果の内容・特徴

  • 簡易予測システムは、2.で示す強度低下モデルを用いて、通常の地震(レベル1地震)を想定して実施する一般的な土質試験データから、地震中の繰返し荷重によるため池堤体の強度低下を推定し、ため池沈下量を予測することができる。
  • 130種類の堤体土の液状化試験、繰返し三軸圧縮試験等を基に作成した礫質土、砂質土、粘性土のモデル式を用いて、地震時の堤体の強度低下を算定することができる(図1(b))。このモデルを使用することによって特殊な土質試験を実施しなくても、一般的な土質試験だけで堤体の強度低下を考慮した沈下量を算定できる。
  • 簡易予測システムは、強度低下モデルを用いたニューマークD法によってため池沈下量を計算する。ニューマークD法はため池堤体の強度低下を考慮した塑性すべり解析と運動方程式により、すべり土塊の滑動変位量を算定する手法である(図2)。
  • 簡易予測システムを組込んだPC版ソフトウェアでは、予測されたため池沈下量と許容沈下量と比較することで耐震診断・耐震設計ができる。1つのため池の耐震診断・耐震設計に係るコストは従来の1/3に縮減でき、工期は1か月に短縮することができる。
  • 簡易予測システムは、耐震診断において地震波形を変化させることで、ため池ごとの地震の最大加速度に対する沈下量の関係(沈下量算定図)を作成することができる。(図3(a))。地震発生時に最大加速度がわかれば、沈下量算定図によりため池の沈下量を読み取ることができる。
  • 簡易予測システムでは、2.で使用した130のデータから土質材料に応じた強度低下モデルの標準値を設定しており、礫質土、砂質土、粘性土といった堤体の土質材料の種類だけで概略的に地震時のため池沈下量の予測が可能である。2017年度普及成果である「ため池防災支援システム」に簡易予測システムは組込まれており、10万か所のため池について沈下量算定図を用いたリアルタイム危険度予測が可能である(図3(b))。
  • PC版ソフトウェアでは、任意のため池堤体の形状ならびに任意の計算範囲を設定し、沈下量を計算することができる。一方、ため池防災支援システムでは4種類のため池形状から断面形状を選択し、2通りの計算範囲から沈下量を計算する(図4)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ため池耐震対策に係わる国、地方公共団体、コンサルタントの設計技術者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:10万か所のため池がある全国の地域
  • その他:本システムは、PC版ソフト(有償)とため池防災支援システムで利用できる。

具体的データ

図1 地震時のため池堤体の強度低下,図2 簡易予測システムによる計算過程,図3 ため池のリアルタイム危険度予測,図4 PC版ソフトウェアとため池防災支援システムの違い

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:泉明良、堀俊和、上野和広(島根大学)、Duttine Antoine(株式会社複合技術研究所)、矢﨑澄雄(株式会社複合技術研究所)、堀部幸祐(株式会社コア)
  • 発表論文等:泉ら(2019)職務発明プログラム「地震時のため池沈下量の簡易予測システム」、P第10958号-1