下流河床低下時の取水堰直下洗掘深さの推計式

要約

近年、下流河床低下時の取水堰直下洗掘が問題になっている。これまで推計する手段が無かったその洗掘深さを、この問題が起きる現場諸元を概ね網羅して、±10%の精度で推計できる推計式である。これにより下流河床低下が生じた堰の止水壁、護床工等の改修をより適切に行える。

  • キーワード:取水堰、護床工、下流河床低下、洗掘、洪水
  • 担当:農村工学研究部門・水利工学研究領域・施設水理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7569
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

取水堰築造後、砂利採取、治水掘削等による下流河床の低下が堰付近まで波及している事例が全国で多数見られる。このような堰では洪水時に堰直下が大きく洗掘され被害を受けやすい(図1)。これに対し止水壁、護床工を改修し、堰被害を防ぐ必要があるが、それらの設計を適切に行うには、下流河床低下時の堰直下洗掘深さの推計が不可欠である。しかし、そのような推計式はこれまで無い。そこで本研究ではフルード相似則に基づく水理模型実験により推計式を導出、提案する。

成果の内容・特徴

  • これまで不明であった下流河床低下が生じている条件下での堰直下最大洗掘深について、フルード相似則に基づく水理模型実験により導出した推計式である。
  • この推計式により堰直下最大洗掘深を±10%の精度で推計出来る(図2)。
  • 本式を用いて洗掘深を推計することにより、下流河床低下時の止水壁や護床工の改修をより適切に行える。
  • 従前、下流河床低下時の堰直下洗掘を防ぐ工法としてマット工法(2015年度成果情報)が呈示されているが、そのマット長さも本式により適切に設計可能となる。
  • 本式の最大洗掘深は、河川洪水時の単位幅当たり流量10~30t/s/m、堰エプロンから下流河床までの落差2~7.5m、洪水通水時間0~50時間、河床勾配1/150~1/750、堰放流フルード数2.39~3.27(堰高3m、堰ゲート全開)、河床粒径1.9~6.1cmで導出されており、これは下流河床低下が問題となる農業取水堰の現場諸元を概ね網羅している。
  • 推計式の一例(河床勾配1/450、堰放流フルード数Fr=2.69、無次元粒径d/W=0.020(d:河床粒径、W:堰高)は次のとおり(図3、4)。下式中a、bの式は河床勾配、堰放流フルード数、無次元粒径毎に異なる。

    ηmx/hc=a・(t・(g/ hc)0.5/103)b
    a= 0.1741×( z/ hc) 2 +1.4338×( z/ hc) + 0.7368
    b = 0.0163×( z/ hc) 2 - 0.0395×( z/ hc) + 0.0782
    ここで、ηmx:最大洗掘深、hc:限界水深(単位幅当たり流量から決まる値)、t:洪水通水時間、g:重力加速度、z:堰エプロンから下流河床までの落差

  • 推計は、単位幅当たり流量より堰放流フルード数Frを求め、次に落差z、洪水通水時間tから現地に近い河床勾配、堰放流フルード数、無次元粒径での最大洗掘深を求め(最大8つ)、それらを内挿して現地の最大洗掘深を算出する(図3)。堰放流フルード数は堰高3m(現地の概ね最大相当)以下では変動が小さいので、ここでは最大洗堀深が最も深くなりうる堰高3mで固定して算出する。一方、ごく稀な堰高3m超の堰に関しては、本式でなく個別の模型実験で検討する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:民間企業、行政機関。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:下流河床低下が生じている農業取水堰(国交省公表データの全国161カ所の堰の築造後下流河床変動量は河床平均標高で+1~-6m、最深河床標高で最大-12mでほとんどの堰で下流河床低下が見られる)。
  • その他:単位幅当たり流量、落差、河床勾配、堰高、河床粒径が上記諸元の範囲を超え、より洗掘深が深くなるごく稀な現地条件では、個別の模型実験で検討するか、基岩深さを最大洗掘深とする(基岩深さの方が洗掘深より往々にして浅くなる)。逆に、より洗掘深が浅くなる稀な現地条件では、上記推計式での最大洗掘深の最小値を用いる。

具体的データ

図1 農業用取水堰事例(左)と河床低下による堰の損壊(右、エプロンの陥没),図2 下流河床低下時の堰直下最大洗掘深さの推定式の精度(推定値と実測値の比較),図3 推計式の記号説明と計算手順,図4 無次元洗掘深と無次元時間の関係(一例)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:常住直人、髙木強治、田中良和、向井章恵、島崎昌彦、吉瀬弘人
  • 発表論文等:常住(2018)農業農村工学会論文集、307:II63-68