花器官特異的プロモーターと転写抑制因子による花色・花形の効率的な多様化

要約

遺伝子組換え手法を用いて生育の発達ステージ・部位特異的に標的転写因子の機能を抑制することで、多種多様な花色・花形の作出を可能とする。本技術は花きの生育や草姿に影響を与えないため、作出された新たな系統は元品種と同じ条件で栽培可能となる。

  • キーワード:花器官特異的、トレニア、プロモーター、転写因子、遺伝子組換え
  • 担当:野菜花き研究部門・花き遺伝育種研究領域・遺伝子制御ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6574
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

花きにとって、花弁の色、形、模様といった形質の違いは、その花を特徴づける重要な要素である。これらの花の形質の決定には、遺伝子の発現を制御する転写因子が重要な機能を担っている。我々は植物の転写因子機能の改変による花器官の効果的な形質改変を目的として研究を進めており、これまで、転写抑制因子化したシロイヌナズナ由来の転写因子を100種類程度トレニアに導入している。
一方、これらの転写因子の中には、植物体全体で機能抑制させた場合に、花以外への望まない形態変化が生じるものが見られる。例えば、葉や花において生育や形の制御に係わるTCP3転写因子の機能を植物体全体で抑制したトレニアでは、花の形質が劇的に変化する一方で、葉の変形や植物体の矮化といった望ましくない形態変化も生じる。本研究では、転写抑制因子を植物体に導入する際に、全身発現型プロモーターの代わりに花器官特異的プロモーターを用いることで、望ましくない形態変化を回避しつつ花に新しい形質を付与する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 転写抑制因子化したシロイヌナズナのTCP3転写因子の遺伝子と、花器官だけで機能する5種類のプロモーター(シロイヌナズナ由来;AtAP1、トレニア由来;TfDEFTfGLOTfDFRTfF3H)をそれぞれ組み合わせてトレニアに導入すると、花の形や配色パターンが変化した多種多様なトレニアが作出される(図1)。
  • 本技術により作出される組換えトレニアでは、全身発現型のプロモーターで見られる葉の変形や植物体の矮化などの望ましくない形態変化が回避される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 花器官特異的プロモーターと転写抑制因子を組み合わせて用いる本技術は、トレニア以外の様々な花き園芸植物に応用可能と期待される。
  • 園芸植物では従来の交雑育種で得られた後代において、両親それぞれの形質を部分的に受け継ぐことによる生育特性の変化が問題になることがあるが、本技術では、花以外の器官の形質への影響を回避できるため、多数得られる新系統は元の品種と同じ条件で栽培可能である。
  • 本技術は、今回用いたTCP3転写因子や花器官特異的プロモーターの組合せに限らず、様々な転写因子や花器官特異的プロモーターの利用が可能である。
  • 全身発現型プロモーターを用いた場合には致死的な転写因子についても、本技術を用いることで花器官での機能解析が可能となる。
  • プロモーターと転写因子の組合せによっては誘導される形質が予測できる場合もあるが、機能未解明の転写因子等を利用した場合は予測が困難である。

具体的データ

図1 花器官特異的プロモーターの利用による多種多様なトレニアの花?図2 花器官特異的プロモーターの利用による望ましくない形質変化の回避

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2011~2016年度
  • 研究担当者:佐々木克友、山口博康、笠島一郎(特別研究員等)、鳴海貴子(香川大)、大坪憲弘
  • 発表論文等:Sasaki K. et al. (2016) Plant Cell Physiol. 57(6):1319-1331