水稲の出穂日を面的に推定するプログラムと推定マップをweb公開

要約

日平均気温の実況・予報値の1kmメッシュデータと水稲の平年出穂日、平年田植日を用いて、出穂日を面的に推定する方法を開発した。田植日、品種などの煩雑な条件設定なしで出穂日を面的に推定できる実用的な手法である。

  • キーワード:出穂日、平年出穂日、1kmメッシュ、水稲
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3462
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

1kmメッシュ農業気象データの利用場面のひとつに、冷害や高温障害対策の判断基準として面的(1kmメッシュを単位とした広域)な水稲生育情報の提供が望まれている。しかし、初期値として出芽日、または田植日の面的な情報を与える必要がある。一方、寒冷地においては、作季が限定されていることから、平年出穂日の地域的変動が少ない。そこで、平年出穂日から田植日の初期値を推定することによって、水稲の出穂日とその平年差の面的分布を簡易に計算する方法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 出穂日を予測するフローチャートを図1に示す。30年平均の平年出穂日、平年田植日、30年平年気温と日長から、田植日の発育指数(DVI)を1km2メッシュごとに推定する。気温、日長から日々の発育速度を計算し、前日の発育指数に加算し、発育指数が1を超えた場合に、出穂日と判定する。出穂日と平年出穂日の差を出穂日の平年差とする。東北地方の作柄表示地帯について、平年出穂日、平年田植日を算出し、同地帯内では同一日であると仮定して、出穂日と出穂日の平年差を面的に計算する。
  • 1981年から2010年までの30年間、東北地方の作柄表示地帯21地点、合計630データについて、出穂日を推定して、実際の出穂日と比較する。両者の間には、大きな外れ値が無いこと、推定した出穂日と実際の出穂日の二乗平均平方根誤差(Root Mean Square Error)は、2日前後であり、推定した出穂日と実際の出穂日の差の平均は、0.02日であり、偏りが見られない(図2)。本計算方法は、推定精度の高い実用的な手法である。
  • 推定した出穂日の1km2メッシュ図は、実際の作柄表示地帯の出穂日の分布をよく表している。1993年には大冷害が発生したが、太平洋側と北東北における出穂日の遅れを(図3)、2000年の高温年には、出穂日が早まる傾向をよく再現している(図4)。
  • 計算プログラムは、職務作成プログラムに登録済みで、利用希望者に配布可能である。農研機構メッシュ農業気象データの平年日平均気温、日平均気温と平年出穂日、平年田植日、及び発育速度式を入力し、都道府県ごとの出穂日を面的に推定することができる。
  • 東北地方の毎年の水稲の面的出穂日予測は、web公開されており、PCやスマートフォン、タブレットなどから閲覧可能である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設農業試験研究機関、公設農業普及組織、農業生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:平年出穂日の地域的変動が少ない、寒冷地が望ましい。「多項式・関数式DVRの計算表示プログラム」機構-L02、利用申請41件と同程度の利用が見込まれる。
  • その他:面的出穂日予測は、出穂日を中心にする重要な作物歴に関する情報を追加していくことにより、今後、広く研究分野で活用されることが期待できる。なお、作柄表示地帯で品種や作付け時期が急劇に変化した場合には推定誤差が大きくなる可能性がある。

具体的データ

図1 出穂日を予測するフローチャート;図2 推定した出穂日と実際の出穂日の比較、30年、21地点、630データ、1月1日を1とした日数、直線は1:1;図3 冷害年(1993年)の出穂日の推定値(左)と実況値(中)、出穂日の平年差(右)、実況値は東北農政局発表の作柄表示地帯の区分図、1月1日を1とした日数;図4 高温年(2000年)の出穂日の推定値(左)と実況値(中)、出穂日の平年差(右)、実況値は東北農政局発表の作柄表示地帯の区分図、1月1日を1とした日数


その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2017年度
  • 研究担当者:川方俊和、大野宏之、大久保さゆり、長谷川利拡
  • 発表論文等:
  • 1)川方(2017)生物と気象、17(4):77-82
    2)川方(2017)職務作成プログラムP第10769号-1「水稲の面的出穂日予測の計算プログラム」、機構-L08
    3)農研機構(2017)「水稲の面的出穂期予測」http://www.headmesh.affrc.go.jp/ (2017年3月20日)