国際連携研究で大気CO2濃度上昇時のコメの収量予測の信頼性を向上

要約

16種類のコメ収量予測モデルを用いて、CO2濃度が上昇した際のコメ収量の予測精度を、実測値との比較から評価したところ、個々のモデルの予測値には大きなばらつきがあったが、複数の予測モデルの利用によってコメ収量予測の信頼度を向上できる。

  • キーワード:農業モデルの相互比較・改良プロジェクト(AgMIP)、気候変動、収量予測モデル、開放系大気CO2増加実験、マルチモデルアンサンブル
  • 担当:東北農業研究センター・生産環境研究領域・農業気象グループ
  • 代表連絡先:電話019-643-3404
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

地球規模で進行する気候変動にうまく適応し、将来にわたり作物を安定生産していくためには、気候変動が作物生産に与える影響を正確に予測する必要がある。このため、世界各地でCO2濃度の上昇の影響を考慮したコメ収量の予測が行われているが、予測モデル間の比較や統一基準での予測精度の評価は行われていない。そこで、本研究では農業モデルの相互比較と改良のための国際的プロジェクト(AgMIP、留意点1)において、世界各地で開発された計16のコメの収量予測モデルの比較・検証を行い、予測精度の向上を図る。

成果の内容・特徴

  • 世界9か国の18機関と協力し、世界各地で開発された16のコメ収量予測モデルを、岩手県と中国江蘇省で行われた屋外実験(FACE実験、留意点2)およびアメリカのフロリダ州で行われた人工気象室実験(図1)条件に適用して、実測値と比較する。
  • 対照区(約370ppm)と約50年後を想定した「高CO2濃度条件下(約570ppm)」の収量を比較すると、屋外(FACE)ではCO2濃度が上昇すると収量が約13%、人工気象室では約29%増加する(図2)。モデル予測では、個々のモデルの予測値のばらつきは、実験誤差よりも著しく大きいが、全モデルの予測値の平均値は、実測された収量および高CO2による増加率とよく一致する(図2)ことから、複数のモデルの予測結果を集合するマルチモデルアンサンブル(留意点3)の手法は、予測精度の向上に役立つ。
  • CO2濃度上昇に伴う収量の増加率がモデルによって異なるのは、葉の展開方法の計算方法の違いよるところが大きい(図3)ことから、高CO2濃度に対する葉面積の増加の反応を精査すること、モデルの改良が可能である。

成果の活用面・留意点

  • AgMIP(The Agricultural Model Intercomparison and Improvement Project、農業モデルの相互比較と改良のための国際プロジェクト)は、世界の作物モデルを統一基準で比較し、予測精度の向上に結び付けるために、2010年に立ち上げられた国際プロジェクトである。イネを対象とした研究チームは2011年に発足し、現在、9か国(日本、中国、インド、フィリピン、アメリカ、イタリア、フランス、オーストラリア、オランダ)の計18機関の研究者が参加し、研究を継続している。
  • FACE(Free-air CO2 enrichment、開放系大気二酸化炭素増加)実験は、大気中のCO2濃度の上昇など、今後予想される気候変動が農作物に及ぼす影響を、屋外の囲いのない条件で調べる実験である(図1)。コメを対象にしたFACE実験は、農業環境技術研究所と東北農業試験場(いずれも現農研機構)が1998年に岩手県雫石町で世界に先駆けて開始し、2001年には農研機構の技術支援により、中国江蘇省にて中国科学院が世界で2か所目の水田FACE実験を実施している。
  • マルチモデルアンサンブルは、モデルの不完全性を前提に複数のモデルの結果を集合とする数値予報で、コメ予測に適用するには国際的な連携研究が必要である。

具体的データ

図1 本研究の概要;図2 屋外(FACE)および人工気象室での実験で得られた収量の実測値とモデルによる予測値;図3 4種類の葉面積推定のタイプ別にみた葉面積、地上部乾物重、収量の高CO2濃度による変化率の予測値(左、日本FACE;右、中国FACE)

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2011~2017年度
  • 研究担当者:長谷川利拡、Tao Li(国際イネ研究所)、Xinyou Yin(ワーゲニンゲン大学)、Yan Zhu(南京農業大学)、Ken Boote(フロリダ大学)、Jeffrey Baker(アメリカ農務省)、Simone Bregaglio(イタリア農業環境研究センター)、Samuel Buis(INRA)、Roberto Confalonieri(ミラノ大学)、Job Fugice(国際肥料開発センター)、麓多門、Donald Gaydon(CSIRO)、Soora Naresh Kumar(インド農業研究所)、Tanguy Lafarge(CIRAD)、Manuel Marcaida III(国際イネ研究所)、増富祐司(茨城大学)、中川博視、Philippe Oriol(CIRAD)、Françoise Ruget(INRA)、Upendra Singh(国際肥料開発センター)、Liang Tang(南京農業大学)、Fulu Tao(中国科学院地理資源学研究所)、若月ひとみ、Daniel Wallach(INRA)、Yulong Wang(揚州大学)、Lloyd Ted Wilson(テキサス農工大学)、Lianxin Yang(揚州大学)、Yubin Yang(テキサス農工大学)、吉田ひろえ、Zhao Zhang(北京大学)、Jianguo Zhu(中国科学院南京土壌研究所)
  • 発表論文等:
  • 1)Li et al. (2015) Glob. Change Biol. 21:1328-1341
    2)Hasegawa T. et al. (2017) Sci. Rep. 7:14858