カバークロップによる除染後傾斜畑での放射性セシウム流出抑制効果

要約

除染後傾斜畑にカバークロップを導入すると、管理耕起の場合に比べ、積算土砂流出量が1割以下、放射性セシウム流出量が2割以下に抑制される。

  • キーワード:放射性セシウム、除染後農地、侵食、カバークロップ
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・水田作移行低減グループ
  • 代表連絡先:電話024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い放射性セシウムによって汚染された計画的避難区域などでは、表土の剝ぎ取りと客土による除染が実施されている。避難指示解除後も帰還する農家が少なく労力が不足しているため、除染された圃場はすぐに営農再開されず休耕地のままである。このような背景から、休耕地の省力的農地保全手段としてカバークロップの導入が適切であると考えられるが、とりわけ、傾斜面に位置する休耕地では、侵食を防止し、周辺環境への放射性セシウム(137Cs)の拡散を防止するための手段としてもカバークロップが有効であると考えられる。そこで、カバークロップを除染後傾斜畑に導入し、土壌や137Csの流出抑制効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 土壌侵食モニタリング装置を傾斜畑に設置し、カバークロップ導入区における土壌および137Csの流出量を無作付で除草のための耕起を行った管理耕起区と比較することで、カバークロップによる流出抑制効果を定量的に評価できる(図1)。
  • 管理耕起区の土砂および137Cs流出量は、地表面被覆率や管理耕起による地表面状態の変化に応じて時期的に大きく変動するが、いずれの時期においても、カバークロップ区の流出量は管理耕起区よりも1桁低くなる(図2)。
  • カバークロップとして、ペレニアルライグラス+ケンタッキーブルーグラス+シロクローバを混播した混播区では播種後早期より被覆率が高まるが、ヘアリーベッチを播種したベッチ区では播種後数ヶ月間の被覆率が低く、12月11日の降雨イベントにおける137Cs流出量は混播区の8倍となる(図2)。翌春以降は、ベッチ区においても被覆率が増加し、両区の流出量の差は小さくなる(図2)。
  • 試験期間中の土砂および137Csの流出量は、混播区では管理耕起区の4%および7%、ベッチ区では9%および18%となり、カバークロップの導入により流出が著しく抑制される(表1)。管理耕起区の土砂の加重平均137Cs濃度が他の試験区に比べ低い原因は、客土(マサ土)由来の137Cs濃度の低い粗粒質粒子が多く流出したためである(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 除染後農地の省力的管理法として、侵食防止や雑草抑制への活用が期待される。
  • 計画的避難区域(本試験期間中は避難指示解除準備区域)に指定されていた川俣町山木屋地区の除染後(約5cmの表土剥ぎ取りとマサ土客土、プラウ耕)の黒ボク土傾斜畑(傾斜6~7°)における2015~2016年の調査結果である。
  • ペレニアルライグラス(播種量2.0gm−2)、ケンタッキーブルーグラス(同0.9gm−2)およびシロクローバ(同0.1gm−2)の混播区は、営農再開時期が定まらない農地に対し、追肥等を行わない省力的管理のもとで地表面の被覆を短期~長期にわたり維持するものとして設計している。ヘアリーベッチを5.0gm−2の密度で播種したベッチ区は、除染作業により低下した地力を補う効果も期待できる。
  • 土砂流出量を土壌の厚さに換算すると、1年あたり、混播区で0.020mm、ベッチ区で0.045mm、管理耕起区で0.541mmである。

具体的データ

図1 土壌侵食モニタリング装置;図2 降雨量、地表面被覆率、土砂流出量、137Cs流出量の推移;表1 土砂および137Csの流出総量と土砂の加重平均137Cs濃度

その他

  • 予算区分:委託プロ(営農再開)
  • 研究期間:2015~2016年度
  • 研究担当者:若林正吉、江口哲也、太田健、松波寿弥、好野奈美子、東山雅一
  • 発表論文等:若林ら(2018)土肥誌、89(1):19-25