放射性セシウムの玄米への移行を水田土壌の交換性カリ含量から推定

要約

2012年から2015年の福島県内水田での調査データを対数正規分布に従う統計モデルで解析すると、2015年の土壌から玄米への137Csの移行係数は2012年に比べて35%低く、また、玄米放射性セシウム濃度の95%分位点を推定できる。

  • キーワード:放射性セシウム、交換性カリ含量、統計モデル、玄米、移行係数
  • 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・水田作移行低減グループ
  • 代表連絡先:電話024-593-1310
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性セシウム(134Csと137Cs)の吸収抑制対策として、水稲では土壌中交換性カリ含量25 mg-K2O 100g-1を目標としてカリの上乗せ施用が実施されている。本研究は、カリ上乗せ施用が中止されて土壌中交換性カリ含量が低下した場合の玄米放射性セシウム濃度の上昇リスクを予測するための基礎知見として、収穫時の土壌中交換性カリ含量と移行係数の関係を統計モデル解析によって明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 福島県内の水田321筆(図1、のべ558筆)についての2012年から2015年までの農林水産省消費・安全局の「農地土壌等の放射性物質実態調査」に基づく137Csの土壌から玄米への移行係数と収穫時の土壌中交換性カリ含量を基礎データとする。
  • 0以上の値をとる確率分布である対数正規分布、ワイブル分布およびガンマ分布のうち、対数正規分布の予測精度が最も良いため、移行係数は対数正規分布(表1、式(1))に従うとして統計モデル解析を行う。収穫時の交換性カリ含量、年次および地域(浜通り、中通り、会津)の効果を考慮するために、尺度パラメータαを収穫時の交換性カリ含量、年次の影響を示すパラメータおよび地域性を示すパラメータで表す(表1、式(2))。
  • 移行係数はαに比例し、例えば、2013年の移行係数は2012年のeb0,2013倍である。すなわち、移行係数は2012年に比べ2013年、2014年および2015年はそれぞれ23%、32%および35%低く、経年低下しているものの低下程度は年々小さくなっている(図2)。移行係数が経年で低下するのは、粘土鉱物による放射性セシウムの固定が年々進み、水稲に吸収されにくくなるためと考えられる。なお、地域性が生じる要因は明らかではない。
  • 移行係数の95%分位点(95%のものがこの値以下となるような点)は地域・年次毎に推定できる(図2、式(3))。さらに、移行係数の95%分位点に土壌の放射性セシウム濃度を乗じることにより、玄米の放射性セシウム濃度の95%分位点を求められる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 今後の吸収抑制対策における基礎資料として活用できる。
  • 直接汚染の影響が含まれるため、2013年の南相馬市のデータを除いて解析を行っている。
  • 南会津地域に調査水田はない。また、旧警戒区域および旧計画的避難区域内の調査水田は少なく、調査継続年数が短い。
  • 本調査における交換性カリ含量は3.1~162.7mg-K2O 100g-1、玄米の137Csが検出される場合の移行係数は0.0002~0.1889の範囲である。なお、玄米の137Csが不検出のデータであっても137Csが検出下限値以下に分布しているとして解析に用いている。

具体的データ

表1 統計モデルにおけるパラメータの推定値,図1 調査水田の分布,図2 移行係数の年次間差,図3 玄米放射性セシウム濃度の95%分位点

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2012~2018年度
  • 研究担当者:藤村恵人、山村光司、太田健、石川哲也、齋藤隆(福島農総セ)、荒井義光(福島農総セ)、信濃卓郎
  • 発表論文等:Yamamura K. et al. (2018) J. Environ. Radioact. 195:114-125