新たな多層断熱資材「ナノファイバー断熱資材」利用マニュアル

要約

多層断熱資材の中綿にナノファイバーを使用した断熱資材の利用マニュアルである。ナノファイバー断熱資材は従来の多層断熱資材と比べて断熱性能は同等であるが、軽量・薄型化され取扱性が改善し、施設園芸における冷・暖房負荷の軽減効果がある。

  • キーワード:保温被覆、施設園芸、省エネルギー、夜間冷房
  • 担当:西日本農業研究センター・傾斜地園芸研究領域・傾斜地野菜生産グループ
  • 代表連絡先:電話084-923-5389
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

施設園芸では、冬季における暖房燃料使用量の削減(省エネルギー対策)と夏季の生育障害を抑制し(暑熱対策)減収を抑えることが重要な課題である。省エネルギー対策としては、温室(ハウス)の保温性能向上により暖房負荷を抑制することが基本であり、高い断熱性能を有する多層断熱資材の利用は有効な技術として注目されている(2012年度普及成果情報http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/warc/2012/141c0_01_16.html)。また、多層断熱資材は遮熱資材としても機能し、夏季における冷房負荷の軽減にも有効と考えられる。しかし、多層断熱資材は従来利用されている保温資材より重く、扱いにくいなどの欠点がある。そこで、同じ目付(単位面積当たりの重さ)であっても高い断熱性が期待されるナノファイバーを導入して新たな多層断熱資材を開発するとともに、その利用法を提示する。

成果の内容・特徴

  • 新たに開発したナノファイバー断熱資材は、多層断熱資材の中綿にナノファイバーを導入した被覆資材である(図1)。開発したナノファイバー製造装置によりナノファイバーシートを製造し、同シートを表地(不織布)で挟みキルティング加工する。
  • ナノファイバー断熱資材の熱貫流係数(断熱性能)は、一般に使用されている保温用被覆資材の約1/3であり、現行の多層断熱資材と同等であるが、現行の多層断熱資材と比較して重さは約80%、厚さは約40%にまで軽量・薄型化され、低価格である(図1、表1)。
  • ナノファイバー断熱資材を設置した温室における暖房時のエネルギー消費量は、慣行の保温資材(農業用ポリオレフィン系特殊フィルム(農PO、0.075mm厚)を設置した温室と比べて35~51%減少し、暖房負荷軽減効果が高い(図2)。一方、夏季のヒートポンプによる夜間冷房時のエネルギー消費量は暖房時の場合に比べ軽減効果は小さいものの、消費電力量は約10%の削減効果が期待できる。
  • 夜間冷房によりトマトおよびガーベラの品質および可販収量は、それぞれ向上する効果が見られる。冷・暖房コストの削減と可販収量の向上により、例えばガーベラでは最大で30%の増益効果が期待される(表2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:施設園芸生産者、ハウスビルダー・資材販売業者等
  • 普及予定地域・普及予定面積等:普及対象は全国。ナノファイバー断熱資材は、5年後に10ha、10年後に40haの普及を見込んでいる。
  • その他:ナノファイバー断熱資材の設置において、一般的な被覆資材の留め具、開閉装置を用いて温室に設置できる。ナノファイバー断熱資材については、2018年度中に市販化の見込みである。

具体的データ

図1 保温資材の熱貫流係数の比較と多層断熱資材の断面の比較;図2 ナノファイバー断熱資材が温室の暖房負荷に及ぼす影響;表2 ナノファイバー断熱資材の利用によるガーベラにおける所得向上効果


その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:川嶋浩樹、杉田博志(ナノマトリックス)、塚原昌暁(ナノマトリックス)、堀昌司(ナノマトリックス)、井野晴洋(京都工繊大)、與那覇耕伸(東京インキ)、河野彰良(東京インキ)、今原淳吾(静岡農研)、梅田さつき(静岡農研)、前島慎一郎(静岡農研)、外岡慎(静岡農研)
  • 発表論文等:農食事業27013Cコンソーシアム(2018)「ナノファイバー断熱資材活用マニュアル」http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/pub2016_or_later/pamphlet/tech-pamph/079866.html (2018年1月31日)