炊飯後に褐変しにくく、食味に優れる二条裸麦品種「キラリモチ」

要約

裸麦品種「キラリモチ」は、プロアントシアニジンフリーの特性を有し、炊飯後に褐変しにくい。もち性であるため食味に優れ、既存品種に比べてβ-グルカン含量が高い。オオムギ縞萎縮病、うどんこ病に抵抗性である。

  • キーワード:二条ハダカムギ、プロアントシアニジンフリー、もち性、低褐変、β-グルカン
  • 担当:西日本農業研究センター・作物開発利用研究領域・畑作物育種グループ
  • 代表連絡先:電話0877-62-0800
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

主食用の大麦は炊飯後の白度が高い品種が望まれているが、既存の品種は炊飯後に褐変しやすい。褐変にはポリフェノールの一種であるプロアントシアニジンが関与する。またもち性大麦は、炊飯麦が粘弾性に富み食味が良くなり、健康維持機能があるとされる食物繊維のβ-グルカン含量が高まる。そこで、プロアントシアニジンフリー(ant28遺伝子による)特性ともち性(アミロースフリー)の特性を両方有し、機能性成分であるβ-グルカン含量も既存品種に比べて高い特徴を持つ品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 「キラリモチ」は、2000年7月に「四国裸103号」(後のユメサキボシ)と「大系HL107」(後のとちのいぶき、ant28遺伝子を持つ)のF1を母親とし、「四国裸97号」(アミロースフリーのもち性)を父親として人工交配し、系統育種法で育成した裸麦である。品種登録出願した2009年度の世代は雑種第11代である。
  • 二条並性で、播性の程度はIである。「イチバンボシ」と比べると出穂期は同程度で、成熟期は3日遅い。「ユメサキボシ」と比べると出穂期・成熟期ともに2日早い(表1)。
  • 稈長は「イチバンボシ」より短く、穂数は多い。「ユメサキボシ」と比べると穂長・穂数は同程度であり、耐倒伏性は"強"である(表1)。
  • オオムギ縞萎縮病抵抗性・うどんこ病抵抗性は"極強"で、開花受粉性だが赤かび病抵抗性は"やや強"である。穂発芽性は"易"である(表1)。
  • 子実重と整粒重は「イチバンボシ」「ユメサキボシ」より劣る(表1)。
  • 60%歩留搗精した精麦白度は「イチバンボシ」「ユメサキボシ」よりやや優れる。精麦時間は長く掛かるが、砕粒率は低い(表1)。
  • 精麦の全ポリフェノール含量は「イチバンボシ」「ユメサキボシ」の半分で、プロアントシアニジンはほとんど含まれない。このため炊飯保温後の明るさ(L*)・赤み(a*)の変化が少なく(表1)、褐変しにくい(写真1)。
  • β-グルカン含量は「イチバンボシ」「ユメサキボシ」に比べて約1.5倍高い(表1)。
  • 炊飯麦の食味は「イチバンボシ」「ユメサキボシ」と比べて白さ・粘り・味がかなり優れる。硬さは軟らかく、香りはやや優れる(表2)。
  • アミロースフリーのもち性の特性を示し、「ダイシモチ」と区別できる(写真2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:生産者、精麦加工事業者、食品関連業者、消費者
  • 普及予定地域・普及予定面積等:茨城県で2017年2月に奨励品種に採用され、2018年産は約92ha作付け、2020年産で300haを作付け見込み。2017年度に岡山県・広島県で産地品種銘柄に認定された。これらを含め、2017年12月までに33道県・延べ約190生産者に種子提供しており、利用許諾先は20件以上になった。2018年産の推定作付面積は全国で200~300ha、2019年産はさらに増加すると見込まれる。
  • その他:「キラリモチ」が原料であることを明記した精麦商品も複数販売されている。
  • 栽培上の注意点として、交雑を避けるため他品種と隣接して栽培しない。穂発芽性が易なので適期収穫を徹底する。二条種であるが開花受粉性なので赤かび病の防除は開花期に行う。

具体的データ


その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2000~2017年度
  • 研究担当者:吉岡藤治、柳沢貴司、長嶺敬、高橋飛鳥、高山敏之、土井芳憲、松中仁、藤田雅也
  • 発表論文等:
  • 1)柳沢ら「キラリモチ」品種登録第22117号(2012年12月28日)
    2)柳沢ら(2011)Breeding Science 61:307-310