商用電源のない簡易施設に対応した正確な温湿度モニタリングシステム

要約

気温測定用の強制通風装置を省電力化し、商用電源のない簡易施設に対応できる。市販の機器との組合せによって、園芸施設内外の正確な温湿度を、インターネットで遠隔計測するICT環境モニタリングシステムを低コストで実現することが可能である。

  • キーワード:ICT、施設園芸、低コスト、環境計測、スマート農業
  • 担当:西日本農業研究センター・畑作園芸研究領域・施設野菜生産グループ
  • 代表連絡先:電話 084-923-5389
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

園芸施設内の気温を正しく測定するためには、放射よけを兼ねた通風筒にセンサの感部を入れ、気温と平衡する十分な通風速度を保つことが必要とされているが、強制通風ファン用の電源が常時必要となるため、商用電源(100V)が利用できない施設での使用が困難である。結果的に、多くの無電源の簡易施設では、ICT環境計測システムの普及が困難となっている。そこで、小型の太陽電池で動作する小電力のファンによる送風で、正確な温湿度測定が可能な測定装置を開発し、中山間地の小規模施設等、分散した圃場での生育環境の把握や、生産環境の見える化を実現するICT環境モニタリングシステムの普及に資する。

成果の内容・特徴

  • 開発した測定装置は、放射よけの内部に収められた温度センサの感部のみに外気を局所的に送風する方法(特許第6562449号)により、既存装置のファン(1.5~3.2W)より小電力のファン(0.2W)で、夏季日中の条件下においてもRMSE(二乗平均平方根誤差)0.2°C以内の測定精度を実現する(図1)。
  • 本測定装置は、携帯電話回線対応で通信機能を有する市販の電池式データロガーと組合せることで、無電源の圃場でも10W程度の小型の太陽電池でICT環境計測システムの構築が可能となる(図2)。
  • ICT環境計測システムは、スマートフォン等で手軽に環境モニタリングが可能で、分散圃場の見回りの省力化が図れるほか、データに基づく温度管理技術の高度化で増収効果が期待できる。温室内と屋外の温湿度計測(各1ケ所)を行う場合の導入コストは、1ヶ所あたり約16万円(税抜)である(表1)。
  • ICT環境計測システムは作製マニュアルに基づき、市販品の工作で簡単に作製できる。(図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:都道府県の普及組織や露地や簡易な施設園芸を行う生産者。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:簡易な園芸産地約30ha。5年後を目途に、京都府(トウガラシ)ではシステム導入面積20ha見込み、技術導入は300戸。徳島県(ニンジン)では、システム導入面積10ha、システムを用いた産地内情報共有の技術活用面積200ha(農協主体の導入想定)。
  • その他:
    • ICT環境計測システムの作製方法は作製マニュアルとして公開している。自動制御には対応していない。
    • 本システム導入による温度管理技術の高度化を現地実証した事例では、トウガラシ(京都府)の出荷量は61%増加し、ニンジン(徳島県)は15%の増収効果が得られている(農研機構生研支援センターの地域戦略プロジェクト研究成果として公表予定)。
    • ICT環境計測システムの消費電力は約300mWで、太平洋側・瀬戸内では、太陽電池の定格容量8W、蓄電池容量4.5Ahが目安であるが、日本海側や山間部では定格容量15W、蓄電池容量12Ah以上とする必要がある。

具体的データ

図1 測定装置の構造的特徴(左)と夏季晴天日における気温計測誤差(右),図2 測定装置の電源構成(左)および携帯電話回線に対応した市販のデータロガーとの組合せによるICT環境計測システムの構成例と活用イメージ(右),表1 ICT環境計測システムの導入コスト例(温室内と屋外の温湿度計測(各1ケ所)を行う場合の機器構成例および参考価格),図3 ICT環境計測システム作製マニュアルの記載内容の例

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(25補正「革新プロ(攻めの農業)」、27補正「地域戦略プロ」)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:
    吉越恆、川嶋浩樹、田中正彦(京都府山城北普及セ)、浅井信一(京都府病害虫防除所)、伊藤俊(京都府農技セ)、三村裕(京都府農技セ)、藤原敏郎(京都府農技セ)、竹本哲行(京都府農技セ)、松本静治(京都府農技セ)、原田陽子(徳島県農技セ)、村井恒治(徳島県農技セ)
  • 発表論文等: